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2008年10月10日(金)第4,227回 例会

アイスランド紀行

鈴 木    胖 君(教育研究機関管理)

会 員 鈴 木    胖  (教育研究機関管理)

1934年生まれ。’95年大阪大学工学部長。’00年姫路工業大学長。’04年兵庫県立大学副学長,産学連携センター長・学術総合情報センター長・知的財産本部長。現在の研究分野は循環型社会論,新エネルギー・システム。1998年当クラブ入会。

 いつもはエネルギーや地球温暖化といった難しい話をしていますので,今日は楽しい話に少しだけエネルギーの話を混ぜてお話しします。アイスランドはどういう国か,あまりよく知られていないと思いますので,写真を使いながら,そのユニークさを紹介します。

海嶺の上にある島

 最初に位置ですが,(地図を指し)これがイギリス,ノルウェー,その横のほうにアイスランド島があります。大西洋中央海嶺といって,大西洋の真ん中に海の中の山脈(海嶺)が続いており,アイスランドはその上にあります。ロンドンから(飛行機で)3時間,ニューヨークから5時間という距離です。

 大西洋中央海嶺は北アメリカ大陸のプレートとユーラシア大陸のプレートの分かれ目で,そこにアイスランドが載っているわけです。海嶺のてっぺんは裂けていて,地質学では地溝帯と呼んでいます。あちこちに火山があって,プレートの平衡状態が崩れる時,爆発が起こります。地図のところどころにある白い部分は氷河で,全部合わせるとヨーロッパにある氷河全体よりも大きくなります。国土は大体北海道と四国を合わせたほど,人口は30万人ですから,34万人の吹田市より少ない。

 緯度的には極めて北にありますが,島全部がメキシコ湾暖流に囲まれており,首都・レイキャビクの年間平均気温は4.3度。1月の平均気温は-0.5度と日本よりも暖かく,7月は10.6度と,いつ行っても快適です。人口密度は1平方㎞当たり3人,日本は400人ですから,100倍違います。

 最もショックなのは1人当たりのGDP

(2007年)で,米ドル換算で約6万3,800$,世界第3位です。日本は約3万4,300$ですから,アイスランドのほぼ半分に過ぎない。就業構造(2005年)をみると,サービス業が72%,工業22%,漁業3%,農業3%と,サービスに特化した国になっています。

冷戦終結の出発点に

 この国は欧米ではよく知られています。

1986年,アメリカのレーガンとソビエトのゴルバチョフがアイスランドで会談し,冷戦終結の出発点になりました。会談を取り持ったのがアイスランドの女性大統領でした。

 首都のレイキャビクは大変美しい町で,湖のそばにある市役所は湖に浮いたような感じのユニークな建物です。この町の象徴,ルーテル教のハトルグリムスキルキャ教会もあります。教会の前には,西暦1000年にアメリカ大陸を発見したレイフ・エリクソンの銅像があります。アメリカ発見と言うとコロンブスと思っていますが,それより500年ぐらい前に見つけています。米国はこれをちゃんと認め,銅像を寄付したとのことです。先ほどの米ソ仲介の話にも,こんな背景があるのです。

 (スライドを示し)この奇妙な建物は「ペルトラン」と呼ばれる巨大な貯湯槽です。レイキャビクの人口は19万人ぐらいで,市の90%はこの貯湯槽からお湯が供給されています。お湯は地熱が噴き出すところから険しい山を越えて延々40キロ,熱輸送パイプラインで運んできます。

 シンクヴェトリル国立公園ではあちこちで地熱が噴き出しています。写真は地球の割れ目にできた湖で,湖岸には割れ目が地上に露出しています。地質学者にとっては,本当に行ってみたい場所のようです。地熱発電所もあります。アイスランドの電力は水力発電と地熱発電でまかなっています。80%が水力,20%が地熱です。この公園は,世界で初めての民主議会が開かれた場所でもあります。西暦930年に,皆が集まって合議して,意思決定するというシステムが確立され,今も綿々とそういう議会が国を動かしています。

 観光ではゲイシールという有名な間欠泉があります。地下からの熱水がだんだん盛り上がり破裂して,5分に1度,上に噴き上がります。近くに黄金の滝と呼ばれる極めて大きな滝があります。2段になっていて,すごいスケールです。シンクヴェトリル公園とゲイシールと黄金の滝の3つが,ゴールデンサークルと呼ばれる最も有名な観光ルートです。

地方分権の必要性痛感

 もう1つの名所がブルー・ラグーン。大きな温泉で,国際空港の近くなのでアメリカ人がヨーロッパからの帰りに寄ったりします。地熱発電所から出るお湯をプールして,ブルー・ラグーンという名前を付け,行ってみようと思わせる仕掛けを作ったわけです。

 アイスランドの自然はそれほど優しくはありません。レイキャビクからちょっと車で郊外へ出ると,荒れた溶岩台地が延々と続きます。国道のすぐ近くに広大な氷河が見え,氷河湖を水陸両用艇に乗って回る旅もあります。

 1996年に氷河で火山が爆発し,架かっていた橋がアッという間に破壊された残骸が,そのまま残されています。山の上を氷河が覆っていて,底のほうで火山が爆発。一たん噴火は静まったけれど,溶岩が徐々に出てきて,氷河の下に水がたまり,土石・泥流が起こりました。9月30日に噴火して,土石流が起こったのは11月15日。それぐらいのスケールでこういうことが時々起こります。

 景色はきれいですが,自然は大変恐い。その自然と共存して,ここまで来たわけです。

 レイキャビクから約40kmの所にケプラヴィク国際空港があります。アイスランド航空は,世界の20都市に航路を持ち,主な機材はボーイング757という最新鋭機です。30万の人口でこれだけ大きな航空会社も持てる。人口が少なくても,一生懸命やればこういうところまでやれるという例です。日本でも地方分権がずいぶん言われていますが,もっと小さな地域で意思決定ができ,独自のことができる社会に変わらなければいけないと,アイスランドを見ていてつくづく思います。