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2008年9月26日(金)第4,225回 例会

構想;水と緑の中之島

池 上  俊 郎 氏

京都市立芸術大学
教授
池 上  俊 郎 

大阪堂島生まれ。1974年大阪大学工学部建築工学科卒業。’81年池上俊郎建築事務所,’86年 (株)アーバンガウス研究所設立。’99年京都市立芸術大学美術学部教授。’01年NPO法人エコデザインネットワーク設立,’07年理事長。

 今日は「水と緑の中之島」がテーマですが,それに太陽を加え「水と緑と太陽の中之島」ということでお話したいと思います。

海風生かして気温低下

 最初に「既存都市・近郊自然の循環型再生大阪モデル」というビデオをご覧下さい。文部科学省直系の科学技術振興機構からの受託で研究したもので,中之島の未来図を描いています。(以下ビデオ要約)

 「大阪は現在日本で最も暑い都市です。中心部では最高気温が30度を超える真夏日が1年に約90日,最低気温が25度を超える熱帯夜は約50日あります。緑化を有効に進め,自然の力を利用する必要があります。

 大阪市の中心的街路・なにわ筋に地下鉄の計画があります。私たちは,世界初の2階建て2両連結の燃料電池のバスを走らせる計画を持っています。建設・使用時双方で温暖化ガスの排出,投資資金を削減します。

 植物を増やすことで,環境負荷の少ない街が生まれます。屋上緑化や壁面緑化が,街路や公園とともに良好な環境づくりに寄与します。歩道沿いの植樹帯,街路側溝などを利用して水辺をつくり,建築内部の排熱を放熱蒸散するアクアストリーム計画や,同様の効果を河川から得る提案もあります。

 中之島地区は2つの川の中洲であり景観的豊かさを持っています。西地区は居住,業務地区が模索されています。

 私たちは現状モデル,改革提案モデルの地上1㍍の気温,風速分布などを3次元流体解析しました。水路や並木,保水性舗装によって川に並行して風の道を形成し,風の流れを配慮した屋上緑化,階段状屋根,緑化建築を提案しました。その結果,平均5度,局所的には10度以上の気温低下が期待できます。建築形状などの配慮が,河川を通り道とする海風による冷却効果を上げています。風の一部は建築に沿って下降気流を生じ,豊かな外気形成が超高層社会にあっても可能であることを告げています」(ビデオ終わり)

 以上,私たちが中之島地区に対して考えた内容です。既存都市・近郊自然の循環型再生大阪モデルということで,市中心部のヒートアイランドの脱却を考えました。

 中之島を考えるとき,中之島だけでなく,関西の中心部である大阪の中心と,大阪湾を一体化したような地形を認識してほしいと思います。その真ん中にあるのが中之島です。

島全体を公園として把握

 「水と緑と太陽の中之島」を目指す直接的な考え方をお話しすると,1つは中之島全体を公園・オープンスペースとしてとらえることです。

 公園化された東側と建物が建っていくであろう西側を個別に見るのではなく全体でとらえると,都市の安らぎとか環境負荷軽減という役割が出てくる。具体的には太陽光の有効利用や水の蒸散作用の活用,河川水や地中の熱利用などがあります。

 2番目に,景観と都市アクティビティは,中之島と対岸とのコミュニケーションを生み出す。これは「ほたるまち」(大阪大病院跡地再開発)で一部実現しましたが,より強くこの対岸とのコミュニケーションをつくることが必要です。

 3番目に,ウオーターフロントとしての認識の向上は,景観の楽しみの一方で,防災面でも重要です。地盤が下がっているので,2階レベルの人工地盤による都市ネットワークをつくる。既設の建築物もありますが,そうしたネットワークをつくることで,中之島全体の地位もまた変わってくると思うのです。

 ニューヨークのセントラルパークは都市の中の公園ですが,実は中之島に役割を置き換えることもできる。都市の中心的なオープンスペース,憩いの場,様々な美術館があり,文化芸術,あるいはスポーツの場,自然,周辺には住宅や教育機関もある。中之島もそうした機能を幅広くとらえていくと大阪の中心核であると同時に,都市核にまで拡大することができます。

 10年後,20年後,中之島にも人々がゆったりとそこで生活しているような世界ができていればと思います。

中之島を1000年の基盤に

 私たちが今やらなければならないのは,都市部の復活物語です。私たちには1000年の未来というものに対して責任がある。奈良や京都はまだ生きており,それぞれ1000年を超える歴史があるわけです。

 そうした都市が今,環境問題で50年先も見えるかというような時代になっている。そんな中で,やはり1000年の未来に対して,責任ある私たちが(新しい都市を)つくらないといけない。そこに中之島の役割があると思います。地勢という本来持っている力を生かしていく。

 中之島の中に周辺の街との関係,見る,見られるという関係を生み出していく。

 私たちはデザイナーであるということで,実質的なものをつくっていく。豊かな時間の創造ということで,LED(発光ダイオード)を利用した照明をNPO法人・エコデザインネットワークでつくりました。「風をイメージする光のモニュメント」です。

 この街灯を使うことによって,照明エネルギーを80%減少させました。街灯をシステムとしてつくると,温暖化対策にもなります。単に企業だけではなくて,産・学・民のチームで,また,地域の社会的責任として,具体的に展開していく必要があると思います。

 中之島を改造しながら,いろいろなことを工夫することによって,子どもたちに100年の未来,いや,1000年の未来を保障するというようなことを果たしていく大きな基盤にしてほしいなと思っています。