大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2008年6月20日(金)第4,212回 例会

地球温暖化と海面上昇

岡 田  東 一 君(研究・教育)

会 員 岡 田  東 一  (研究・教育)

1934年大阪府生まれ。’57年大阪大学工学部卒業。同学部助手,助教授を経て’81年同大産業科学研究所教授。’86年同研究所放射線実験所所長。’95年産業科学研究所所長。’98年同大退官。’98~2008年福井工業大学。’03年機械工学科主任教授。’89年低温材料国際会議理事。専門は原子力・核融合工学を中心とするエネルギー問題の中での超伝導磁石に対する放射線照射効果。’88年当クラブ入会。’95年度社会奉仕委員長・理事。’92年度RAC委員長。

 新聞に毎日のように「地球温暖化」という言葉が出てきます。小学生でも知っていて,おじいちゃんは質問されて困ることがしょっちゅうです。勉強しなければと思いました。私は原子力屋で全くの素人です。本日は一市民の目線から,問題がどこにあるのかをお話ししたいと思います。(スライドとともに)

 1988年,米国の気象学者ジェームズ・ハンセンが,こんな論文を発表しました。

 「私たちが現在の生活を続けていけば,排出する炭酸ガスなどの温室効果ガスによって地球は急激に温暖化し,21世紀中に恐るべき環境破壊が生じる。南極の氷がみな溶けて海面が上昇し,海抜の低い都市が海に没する」

 ところで,「急激に」とは明後日なのか,100年後なのか。ある人にこの話をしたら,「温暖化すると春が早く来て,秋が遅く去っていく。いいじゃないか」となって,話がそこで途切れます。「恐るべき環境破壊」も,人によって受け取り方が違います。

 ある専門家はこう話されました。「グリーンランドの氷が全部溶けるには1万4000年かかります。だから何の心配もいりません」。

慎重・積極論…相次ぎ出版

 きょうの私は,それに逆らう話をします。

 ハンセンの論文の後,本がたくさん出ました。一番緊急性の高い2冊が,昨年出た「地球はあと10年で終わる!」「残り時間はもう10年もない!?」です。同じく昨年出た慎重論の「地球温暖化は本当か?」は,いろんな角度から問題を取り上げようとしています。12月には英国の学者で科学ジャーナリストのジョージ・モンビオが書いた慎重かつ積極論の「地球を冷ませ!」が出ました。問題を一番的確に捉えているように思います。

 地球は太陽から熱せられ,もし大気がなければ,放射熱を出して冷えようとします。炭酸ガスも空気も水蒸気もないと-18度になることが知られています。大気というオーバーを着ていて,着過ぎる,つまり炭酸ガスが増え過ぎると全体が温まるのです。

 地球上では場所によって120度くらい温度差があるのに,平均気温が1度上がったらどうだ,2度上がったら滅びるというのです。たった2度です。私も実はわかりません。

 国連組織のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が130国4,000人以上の学者の総合的結論として報告書を出しています。現在最も信頼できると考えられるのが,昨年2月に発表された第4次評価報告書です。それに基づいてもう少しイントロを進めます。

世界各地で目に見える兆候

 太陽系の惑星は太陽から近い順に,水星,金星,地球,火星…と並んでいます。水星はほとんど大気がなく,気温は日の当たる所が400度,当たらない所は-160度です。金星は炭酸ガス90%,90気圧で平均477度。硫酸の雨が降る焦熱地獄です。火星は0.7気圧で80%が炭酸ガス。平均-47度です。

 地球もこのまま炭酸ガスを出し続けると,やがて気候を制御できなくなり,最後は金星のように気温が数百度になって全生物が死に絶えるだろう。これが10億年先,地球は灼熱の中で終焉を迎えるというストーリーです。

 ハワイの山頂で炭酸ガス濃度を測ったデータがあります。1969~2005年の間に280ppmが380ppmに増えました。500ppmを超えないあたりで抑えないといけないそうです。行動を起こすにはあと10年しかないとか,2030年までに手を打たねば,となってくるわけです。

 南極とグリーランドに40万年前から降り積もった雪とその中の気泡を分析すると,年代ごとの大気の状態がわかります。IPCCの報告では,2005年から気温が上がりかけ,炭酸ガスもどんどん上がっています。

 温暖化の兆候を,写真でお目にかけます。

 (カナダの)コロンビア氷河の河口付近です。観光資源だった崩れて海に落ちる氷壁は今や陸地に入っていきました。あと数十年で氷河も消えると言われています。

 次はアフリカのキリマンジャロ山。1970年にはたくさんあった雪が,ほとんどなくなりました。雪溶け水を飲料にしているふもとの人たちが困ることは,目に見えています。

 米国のグレイシャーベイ国立公園にあるミューア氷河は全部溶けて湖になりました。ヒマラヤでもあちこちに雪溶けで湖ができ,決壊します。多くの人が亡くなっています。

海面上がれば日本も危ない

 全世界60億の人々が危機をともに感ずることができるキーワードは「海面上昇」だと思います。「2100年に10~80cm上昇」が予測されています。

 さらに,氷が壊れる場合,例えば,南極のロス棚氷が全部溶けるか転がり落ちたら,海面が5m上昇します。そうなると,米フロリダ,ルイジアナ両州のかなりの部分が消滅。オランダは大変な危機にさらされます。世界のほとんどの港が消えます。バングラデシュでは6,000万人が環境難民となります。上海は4,000万人が浸水で家を失います。日本でも,東京が壊滅します。海上にある関西,名古屋,神戸の各空港は使えなくなります。

 京都議定書で日本は,2012年までに1990年比で炭酸ガス排出量を6%削減すると言っています。しかし,実際には増えています。いつも30点しか取れない人が,次は100点取ると言っているのと同じなんです。

 今の私は,ムンクの絵画「叫び」の心境。悪い予感がします。私たちが何もしないと,今世紀の終わりごろには,孫がピカソの「ゲルニカ」のような目に遭うのじゃないか。がんばらないといけないと考えています。