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2008年3月14日(金)第4,199回 例会

加齢と眼の病気

眞 鍋  禮 三 君(眼科医)

会 員 眞 鍋  禮 三  (眼科医)

1954年大阪大学医学部卒業。’73年同部眼科学教授,’87年日本眼科学会理事長,’91年大阪大学名誉教授。現在,大阪アイバンク理事長,多根記念眼科病院名誉院長。’75年12月当クラブ入会。’79年健康を守る会委員長。

 目は,最も老化しやすい臓器と言われています。年をとったために起こる病気が非常にたくさんあります。私自身も,大阪RCに入った50歳ころからコンサイスの英語辞書を裸眼で見られなくなってきました。今は老眼鏡をかけたまま生活している状態で,最初に目から年をとったなという感慨を受けました。

 その原因を考えますと,皮膚や造血臓器のように,絶えず分裂して新しい細胞に生まれ変わる器官は年をとりにくい。一方,脳や網膜,角膜の内皮,水晶体,硝子体,視神経などは,ほとんど細胞が入れ代わらないで生まれたときのまま残っています。非常に高級な細胞で,再生能力がほとんどないのです。

水疱性角膜症は移植で治療

 まず角膜の話をします。

 一番上に上皮層。その下に,皮膚の真皮に相当するボーマン膜。さらに実質層,デスメ膜,一番底に内皮層があります。上皮層は表層細胞,翼細胞,基底細胞まで皮膚と同じように並んでいます。一番下にある基底細胞が絶えず分裂してそれを上に押し上げて翼細胞になります。それがさらに表層に押し上げられて扁平上皮化し,最上皮から眼脂となって脱落するので,上皮は老化しません。

 内皮は敷石状に一列に並んだ,非常に薄くて元気のいい細胞です。実質層の中にあるプロテオグリカンは水を吸いやすい性質を持っていますが,内皮は,角膜を透明にするために,水がそれ以上入らないようにバリアをつくり,酸素を使って水をくみ出します。

 内皮は全く増殖しません。生まれたときは1平方㎜に3,500~4,000個の細胞がぎっしり詰まっていますが,年をとると約半分に減ります。そして500個を切ると,水疱性角膜症が起こってきます。角膜炎を起こしたり,緑内障や白内障の手術で角膜の内皮を障害して発症することが多いのです。すごく痛みます。視力障害もあり,非常に難渋します。

 治すには,内皮が2,000個以上ある角膜を全層移植します。最近は,内皮だけ入れ替える非常に進歩した技術も開発されています。

あわてなくてもよい白内障

 次は水晶体です。皮膚の表皮を内側にして巾着結びをしたような構造になっています。いわゆる皮膚の真皮との境目にある基底膜が外側にあって,内側に向かってどんどん増殖していきます。一定体積の中でしか増えることができないので,これも永久に新しいのと入れ替わるというわけにいきません。

 中心の方に集まったものを核といい,周りに皮質といって水晶体の大部分を形成するたんぱく質がたまっていきます。核が硬くなって弾力性がなくなると,老眼になります。皮質や核は老化すると酸化されて混濁します。白内障の予防に酸化を防止する薬を使えばいい,と言われているのはそのためです。薬物療法は,進行と老化を遅らせるということです。元に戻して若返らすことはできません。

 一方,手術療法は最近,人工水晶体が実用化されています。しかし,プラスチックなので伸縮しません。老眼であることはご留意ください。ただ,白内障は手遅れのない病気です。不自由を我慢することはないですが,あわてて手術する必要はないと思います。

 飛蚊症は,皆さんも経験あると思います。雲や白い壁を見ると,虫や糸くずが飛んでいるように見えます。病気ではありません。

 硝子体には元々血管が入っていて,水晶体を養うと同時に硝子体自身をつくります。このままでは光が入りませんから,生まれてくるころにはなくなります。その血管だった残りの破片が,残って浮かんでいるのです。

 年をとると,硝子体がだんだん固体から液体に変わってきます。コンクリートのように動かないときは気づかないのですが,緩んでくると,ちょっと眼を動かすと,ついて動いてくるのです。放置して大丈夫です。

 ただし,光が見えるときは,医師に相談してください。夜,電気も点けないのに,眼を動かすとピカピカ光るのは,光視症といいます。どこかに癒着があって,網膜を引っ張っているのです。網膜に穴が開いて網膜剥離が起こったりしますと,癒着が起こります。網膜は再生能力が全くありません。絶対に早く処置しないと間に合いません。

網膜の病気は素早く治療を

 次は,きょうのメインになるかもしれません。加齢性黄斑変性についてです。

 網膜の黄斑中心窩というところには視細胞がたくさん集まっていて,1.0ぐらいの高い視力が出ます。そのほかの周辺網膜というところでは,0.1くらいしか出ません。

 青壮年がかかる中心性網脈絡膜症という病気があります。中心が見えにくくなって物がゆがんだり,暗く見えたりします。炎症ですから,治れば元に戻ります。

 加齢性黄斑変性では,同じようなことが年をとってから起きるのです。新生血管が,元来無血管であるべき黄斑部の網膜内に侵入して網膜を変性させます。変性ですので,治っても元どおり見えるようにはなりません。最近増えてきました。老齢化,高齢化もありますが,食事なんかも関係しています。

 黄斑部網膜の萎縮から網膜に穴が開いてしまう,黄斑円孔という病気もあります。黄斑変性のなれの果てと言っていいかもしれません。液化した硝子体が中に入っていきますから,だんだん真ん中が全く見えなくなってしまいます。液化した硝子体が網膜の裏に流入して網膜剥離を起こし,失明することがあります。早期発見,早期治療が必要です。

 最後に,高齢者に多い正常眼圧緑内障について一言ご指摘したいと思います。緑内障も網膜の病気,視神経の病気です。早期発見・早期治療が必要です。それだけはぜひ頭にとどめて,早めに専門の眼科医にご相談いただきますようにお願いします。