大阪ロータリークラブ

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2007年3月16日(金)第4,153回 例会

少子高齢化時代の医療

西 川    潔 君(婦人科医)

会 員 西 川    潔 (婦人科医)

1932年大阪生まれ。'54年大阪薬科大学卒業,'58年大阪医科大学卒業,'63年同大学院終了,医学博士。同年同大学講師。'71年わが国では初めての不妊症・更年期の専門クリニックとして,西川婦人科クリニック及びカウンセリングルーム開設。現在同クリニック名誉院長。「赤ちゃんが授かる知恵」「バラ色の更年期」など著書多数。'77年当クラブ入会。PHF。

 私が大学院に入ったとき,不妊症という言葉もほとんどなかった時代でしたが,それを研究しろ,ホルモンを研究しろ―と恩師から博士論文のテーマをもらい,それがこの道に入ったきっかけです。

「授精」と「受精」

 今からビデオで,最先端高度生殖医療では,どんなことが行われているのかを,ご覧いただきながら,お話しいたします。

 1個の卵子は0.1ミリ。ここに50ミクロンの精子を注入します。高度な顕微鏡を使い,遠隔操作で行います。ドクターが行うこともありますが,ほとんどが資格を持った技師が行います。「授精」と「受精」という言葉があります。授精の方は,例えば人工授精とか顕微授精というように使います。「人の手で卵子の中に精子を授けている」わけです。

 しかし,本当の意味の生命は,受精によって誕生します。医学ではコントロールできません。私はクリスチャンではありませんが,「神のみぞ知る。神が決めることだ」ということを患者さんに申し上げております。

 最近,体外授精専門医だといい,そればかりに走るドクターが増えています。不遜な発言も聞かれ,非常に愁うべきことだと私は思っています。生命は神の意志によるものだと思うのです。私は十数冊の本を出していますが,不妊関係の本には「授」という字を使っております。「授かりもの」であるというのが私の信念です。

 われわれドクターは,あくまでも患者さんの悪いところを治して,できるだけ自然に妊娠していただきたいと考えています。患者さんの悪いところを治療して,自然にご夫婦の力で妊娠してもらうのが最良の不妊治療だと信じております。

 最先端医療というのは,いかにもドクターが命をつくっているような感じを受けるのですが,決してそうではありません。顕微授精でも,受精卵は次の段階で着床といって子宮に着くかどうか,これは今のところ,われわれにコントロールできません。全くの神の意志に任せるという考えでやっています。

子どもが珍しくなる未来

 私が医者になったときは,不妊症は一部の方の疾患でした。専門クリニックを初めてつくったところ,日本では民間にもなく,海外からも患者さんが殺到しました。現在は,名乗るのが自由なものですから,不妊専門医を名乗る人は多いのですが…。私は開業してから枕元に電話を置き,全患者さんに自宅の電話番号を伝えています。車も安全なものに替えました。私の命は私だけのものではない,医者はそれぐらいの気持ちであるべきだとの信念からです。

 さて,人口ピラミッドを見ていただくと,日本は若い世代がすぼまり,団塊の世代が飛び出しています。そして,第一次,第二次のベビーブーム。第二次ベビーブームの世代が30歳過ぎで,子どもを生む時期となっているのに,つくらない。これが現在の少子化の実態となっています。

 1人の女性が一生に何人の子どもを生むかを「合計特殊出生率」といいます。いつも6月ごろに正式な最終報告が出ますが,昨年6月に発表された’05年の合計特殊出生率は1.25。人数でいえば,100万人余です。

 女性は人口の半分です。ご夫婦は2人ですから,2人で2人生んで元々なのです。合計特殊出生率では「2」となります。それが1.25では,人口が減少するのも当然です。この数字のまま進めば,平成44年の出生は60万人。50年先には生まれる赤ちゃんは,30万~40万人になると試算されます。

 子どもが遊んでいる姿を見るのが珍しい時代が来るかもしれません。この合計特殊出生率で専門家が計算すると,300年から500年で日本人の人口がゼロになるとされます。

 少子化を防がねば,本当に日本は大変なことになります。政治家の方にも,本腰を入れて,国家百年の計として,少子化対策を考えていただく時代が来ていると思います。

急務の少子化対策

 世界の合計特殊出生率を見ると,韓国が一番深刻な状態で,05年に1.0ちょっとです。一方で,注目すべきなのはフランス。フランスは1994年に1.65まで下がりました。その後,フランス政府は官民挙げて,いろいろな少子化対策を実施し,特に福祉政策に力を入れました。例えば手厚い児童手当の額や長い支給期間です。また,外国では,結婚していない女性がもうけた子ども(婚外子)にも,同等に支給されています。

 米国の合計特殊出生率は2を超えています。人工妊娠中絶は一部の州が認めているだけということ,そして養子をもらうのが当たり前という風土が背景にあります。中国は国家政策で一人っ子政策をとっていますが,私のクリニックに来る留学生は,帰国の際に罰金を取られても2,3人を生みたいと言います。

 それに日本には,もう一つ,人口減少要因があります。人工妊娠中絶は年間表面発表で約30万人。本当は50万人ぐらいの命が,闇へと消えているのが実情です。外国では,人工妊娠中絶は禁止しているところが多いのです。

 このロータリークラブには,各界リーダーの方がお集まりで,マスメディアの方もたくさんおられます。少子化問題をまじめに考えていただき,紙面,番組で取り上げていただきたいと思っています。将来,日本を背負う若者がこれだけ減っていっていいものかということを,真剣に検討していただけたら,と思います。