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2007年3月9日(金)第4,152回 例会

西成で出会った人たち

荘 保   共 子 氏

こどもの里 施設長 荘 保   共 子

兵庫県宝塚市生まれ。聖心女子大学卒業後,教会の青年活動の中で西成の子どもたちと出会う。'78年,西成警察署の横に学童保育「こどもの里」を開設。数十人の子供のケアにボランティアスタッフと共に取り組んでいる。'01年大阪市家庭養護寮の認定を受ける。

 ロータリークラブの「4つのテスト」のように申しますと,「真実かどうか」「皆に公正か」「お互いに歩み寄ることができるのか」「日本全体の皆のためになるのか」という観点から話をさせていただきたいと思います。

澄んだ目の子どもたち

 私自身は大学を卒業するまで,日本に日雇い労働者の町があるということを知りませんでした。たまたまボランティアで行ったのが,西成市民館でした。そのとき私は,西宮にある幼児生活団に勤めていましたが,そこの子どもたちと,西成市民館で出会った子どもたちの違いにカルチャーショックを受けました。西成の子どもたちは,すごく目がきれいなのです。どうして,こんなにきれいな目をしているのだろうと思って,私は西成市民館にある保育園に勤めまして,それから早や20年が過ぎました。

 その間に,さまざまな子どもたちに出会いました。最初は,自分が学んできたいろいろなことを子どもたちに伝えてあげたいという思いでしたが,とんでもない話で,いろいろなことを私が教わって,自分の中に着せかけてきた,さまざまな偏見を1枚ずつはずしていくことができました。

 パチンコ屋にいるおじさんに「100円ちょうだい」とせがんでいる子どもに,「人にお金をもらうのはよくないし,やめようね」という話をしました。家出を繰り返す小学校の高学年の女の子がいて,探しにいって見つけては家に帰しました。私のアパートの前から「帰らない」と言って動かない子どもがいました。

 その子どもたちが成長して,さまざまなことを話してくれるようになり,私はやっと本当のことを知りました。

それぞれの真実

 パチンコ屋で「100円ちょうだい」と言っていた子は,親にお金がなくなると父親の吹田の実家に行って「お金をもらってこい」「借りてこい」と言われていました。小学校3年生の妹と4年生のお兄ちゃんが地下鉄代だけをもらって吹田まで行っていましたが,あんまりたびたびなので,玄関まで行ってそのまま歩いて帰ってきてしまい,父親に怒られました。兄妹で相談して,今度は,パチンコ屋で「100円ちょうだい」とせびって,それを父親に渡し,親を支えていたのです。

 家出を繰り返していた女の子は親から,私のアパートで「帰らない」と動かなかった子は家の管理人に,それぞれ性的虐待を受けていました。それが嫌で家に帰りたくなかったのです。結局,自分で児童相談所に駆け込みました。中学校を卒業して帰る家がないので,仕事を探そうと「こどもの里」(カトリック大阪大司教区が西成区で運営する子どもの施設)で宿泊をしていたとき,泣きながら性的虐待を受けていた話をしてくれました。子どもたちが,家出をしたり,お金を他人にねだる裏には,こういう真実があったのです。

 今,親の虐待を受けている子がたくさんいますが,どの子にとっても親はやっぱり親で慕っています。殴られても,殴られても親のもとに行きます。

 また,いろいろな国の人がたくさんいますが,ビザのない子,国籍のない子,戸籍のない子,住民票のない子,こういう問題にも取り組みます。弁護士が必要なこととか,逃げてきた人の離婚の手続きとか,学校に行っていない子を学校に行くようにするとか,親たちではできないことをしています。

 子どもたちが生きていくこと,生存権みたいなことを親ができない。お父さんやお母さんに聞くと,やっぱりそうやって育ってきて,しんどい目をしていている。親子一緒にいたいという気持ちを大切にしながら,それをサポートしていくというのが私たちの仕事だと思っています。

「夜回り」

 横浜で野宿をしている人たちが襲撃されて殺されたという事件があったとき,大きなショックを受けました。そこで,私たちは,野宿をしているおじさんたちはどんな仕事をしているのか,おじさんたちは本当に怠け者なのか――ということを知ろうと,子どもたちによる「夜回り」ということを始めました。

 現場に行っておじさんの話を聞く,出会うことが一番大切だと思い,実際に子どもたちが出かけていっておじさんと話をしました。

 「おっちゃん,何で野宿してるの?」「おっちゃん,昔どんな仕事をしていたの?」。おっちゃんたちは,子どもたちにいろいろな話をしてくれます。自分のご飯もないのに,チョコレートやお菓子を用意したりして,子どもたちの訪問をすごく楽しみにしてくれていました。「おっちゃんは,あのビル建てたんや」とか,いろいろな話をしてくれました。「だけど,こんな歳になったから仕事に行けない」「この間,現場でケガをして,雇ってくれなくなった」とも話します。

 そうやって話をしてみると,おじさんたちは怠けているのじゃない,空き缶やダンボールを集めて,何とか生活をしているのだと,子どもたちが身をもって知っていく。

 景気がよくなれば,真っ先に景気がよくなり,不景気になると真っ先に不景気になる。その町で暮らすと,マスコミがどこまで本当のことを知らせているのかについて,疑問に思います。真実は何なのかな,本当に公平なのかな,と考えます。そうすると,やっぱり公平ではないと思います。

 ハンデを背負って生きている子がいる。でも文句を言うわけじゃなく,必死で生きている。そういうことを知り,みんなが歩み寄ることで,よりよい社会になるのではないかと思います。