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2006年12月8日(金)第4,141回 例会

安倍政権と日本の難局

老 川  祥 一 君(新聞)

会 員 老 川  祥 一 (新聞)

1941年 東京生まれ。'64年 早稲田大学政治経済学部卒業後,読売新聞社入社。
'86年政治部次長。論説委員,政治部長,編集局次長,調査研究本部長,取締役編集局長,同社大阪本社専務取締役編集担当などを歴任。'04年同社取締役副社長編集・営業担当。'05年同社代表取締役社長。著書に「やさしい政党と内閣のはなし」等多数。'02年当クラブ入会。本年度理事・社会奉仕委員長。準PHF,準米山功労者。

 半年前に,ポスト小泉についてお話をさせていただきました。結果から言いますと,大きくは合っていましたが,途中ヒヤッとすることもありました。

予想外の応援

 安倍晋三政権には,私の予想を超えた「応援団」がいました。金正日です。7月5日の明け方から夕方にかけて7発のミサイル発射。「日米安保,日米同盟の安倍」か「アジア重視の福田康夫」か,という局面で,対米関係強化の政策に関心が集まり,福田さんは政局混乱を避けるために出馬を断念。あとは独走でした。

 安倍さんは圧勝して,中国,韓国へ行き,非常にいい滑り出しでしたし,それを補強したのが10月9日の北朝鮮の核実験です。訪中,訪韓は,非常にタイミングがよかったと申し上げたら,安倍さんは「半年前から計画していた」。総裁選に出る,出ないを,まだはっきり言わないときに,既に総理大臣になることを前提に,いろいろなことを考えていたのです。北朝鮮のミサイル発射も「予想していました」と言います。核実験の方は「予想はしていたけれども日にちまではわからなかった」と言っていました。

 また,その後の10月22日の神奈川と大阪の2つの衆院補選も,核実験の余波で安倍さんにフォローの風が吹き2つとも取った。福島の知事選は負けましたが,沖縄の知事選は劣勢予想を跳ね返して自民党が勝ちました。

 今年11月に読売新聞が行いました「日米共同世論調査」で,「日米安保が役に立っている」「駐留米軍の兵力は維持したほうがいい」と答えた人は,いずれも過去最高でした。金正日のミサイル発射,核実験によって国民世論は「日米安保が大事だ」となり,そういう空気が選挙結果にあらわれたと思います。

2つの課題

 一方で,復党問題と道路の特定財源という課題が出てきました。復党問題では,各新聞の世論調査で安倍さんの支持率が,がた落ちになっています。読売新聞の調査ですと,10月の内閣支持率70%が,約5ポイント減っています。産経新聞では46%で,13~4ポイントの急落です。これではいけない,小泉改革路線の継承を印象付けようと,道路の特定財源を一般財源化する―と打ち出したのです。

 これは簡単な話ではなく,小泉政権でも結局やれなかった。結局,表向きは一般財源化に近いことをやろうとなりました。道路をつくる予算が余ったら一般財源に回しましょうという結論です。これは必要な道路をつくるというのですから,必要な道路をふやせば余りは出てこない,むしろたっぷり道路予算を使えるということなのです。安倍さんにとって,イメージはかえってマイナスになった。

 昔,橋本龍太郎さんが絶頂のとき,佐藤孝行さんを入閣させて大臣にした。これがつまずきの石になった。今回の復党騒ぎもつまずきの石になるのではないかと言われています。復党問題で,古い自民党に戻ったと大変評判が悪い。復党させた自民党が悪いのか,おめおめと戻ろうとする造反組もイメージが悪い。

 一番根っこにあるのは,去年の郵政解散の無理。衆議院で可決して参議院で否決したのに,衆議院の方を解散した。私はこのやり方はおかしいと申し上げていました。

 安倍さんは小泉政権の継承と見られていますし,世間もそう見ている。共通の面は,世論の支持あってこその政権という点。昔のように自民党の派閥の数の力で決まるのでなく,国民世論の期待,支持を受けて成り立っているという構造です。これは,官邸主導につながります。安倍さんは,それを組織化して展開しようと,補佐官制度を作りました。

 大きく違うこともあります。小泉さんは,相手がおとなしくて「あなたとはケンカしない」と言っても,挑発して追い込んであくまでもケンカをしてつぶしてきた。一方,安倍さんの頭にあるのは国家,国民です。ですから,憲法改正問題や教育問題にウエイトを置いている。また,小泉さんは靖国一点張り。安倍さんは,いずれ行くことがあるかもしれないけれども,当面は行かないでしょう。こうした安倍さんの柔軟路線は,小泉さんとかなり肌合いが違います。

これからの安倍政権

 安倍さんの強さは,ひとつには先ほど申し上げたように世論の支持。しかし,支持の構造は小泉さんと違っている。今年10月から11月にかけて安倍さんの支持率が落ちた中で,特に落ちているのが若い男性です。安倍さんは,男性より女性の,若い人より高齢者の支持が高い。こうした支持構造は,いざというときに風が吹くか,吹かないか,選挙でブームを起こせるかどうかに影響します。

 もう1つの問題は,安倍さんのメッセージの発信が,企業広報の感覚である点です。首相官邸での取材を,小泉さんのときは1日2回だったのを「1日1回にしてくれ。言いたいことを言わせてくれ」。これは企業のPRの感覚です。知恵をつけているのはNTT広報課長出身の世耕弘成補佐官。この程度で国政のメッセージ発信を考えると大間違い。道路の問題も,役所の抑え方が全くわかってない。わかってない人たちが政権を支えている。そのあたりが,危ない点です。

 国際情勢も,北朝鮮,イラク,資源をめぐるロシアや中国との関係など,大変です。政権が発足して2カ月にもならないのに,こういうふうにブレーキがかかるというのは大変心配です。切り札として登場したわけですから,安倍さんには,何とか頑張ってもらいたいと思います。