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2006年11月17日(金)第4,138回 例会

親を見りゃボクの将来知れたもの
~期待される父母像~

森 本  靖 一 郎 君(教育研究機関管理)

会 員 森 本  靖 一 郎 (教育研究機関管理)

1955年関西大学文学部卒業後,学校法人関西大学に奉職。'57年同法学部卒業。'67年関西大学教育後援会幹事長。'84年関西大学評議員。'92年同理事。'95年同常務理事。'00年同専務理事。'04年より同理事長,現在に至る。
2003年当クラブ入会。準PHF、準米山功労者。

 きょうのタイトルは,少々刺激的につけさせていただきました。親の姿勢が子どもの人格形成,子どもの将来に与える影響が,はかり知れないことを言いたかったのです。

子どもの母校はわが母校

 私が大学に奉職しましたのは昭和30年。ライフワークとして「教育の形成に学生の父兄を組み込む」ことを考え,取り組んでまいりました。

 そして,学生の父兄の団体として「教育後援会」をつくりました。今,全国の大学にありますが,関西大学が元祖です。それまでは,大学教育は教員と学生の二者から成るという考え方が主流でした。「なぜ父母を介在させねばならんのか」という批判,反対が多くありました。しかし,大学教育でも家庭の役割,親と子の心の触れ合いがなければ真の人間教育はできないと考えて,しゃにむに進んできました。

 私は「教育の礎は家庭にあり」「子どもの母校はわが母校」というスローガンをつくり,事あるたびに関係者や父母の皆さん方に話してきました。

 中央教育審議会の答申でも近年,「教育と人格形成の最終的責任は家庭」「心の教育の大切さ」「家庭でのしつけの重要性」が重視されるようになりました。家庭こそ,すべての教育の出発点です。子どもは親の背中を見て育つ,と確信しています。「どのような姿を子どもに見せるか」が重要なのです。

 長く教員をされた評論家の矢野壽男先生が中学生に川柳・狂歌を教えて,作品を本にまとめました。タイトルは「親を見りゃボクの将来知れたもの」。そのなかに,父親については「家庭とは 父厳しくて 母やさし それでいいのだ うちは違うが」。母親については「味噌汁を 朝食べたいのに 母寝てる」。手厳しいのですが,一方で「ありがたさ 母が寝込んで 身にしみる」と優しさを評価し,「母強し 父が死んでも ボク安心」となるわけです。

 子どもは偉そうなことを言っても,深層心理において親に依存し,感謝し,肉親の情は強いと考えています。

生涯学習へのアプローチ

 関西大学は明治19年11月4日に生まれ,今年,創立120周年を迎えました。今日では3万1,600名が学ぶ総合学園です。大学は7つの学部と大学院がありますが,来春には10学部になります。

 関西大学は少子高齢化の進行のなか,新戦略を打ち出しました。30~60歳代のすべてのライフステージに合った教育サービスを提供しようという試みです。

 財団法人,株式会社,関西大学の三者提携で,神戸にシニア住宅をつくり,入居者を対象に2008年度から関西大学の科目等履修生として学んでもらう教育プログラムをスタートさせます。米国では,もう20大学が取り入れている制度で,日本では関西大学が第1号となります。将来的には高齢者学部的なものも新たにつくりたいと,検討しております。

 また,将来,笑いを学問にする学部を設置することも検討しています。幸い,吉本興業の社長や副社長,以前は専務まで関西大学の卒業生でしたし,桂三枝君も関西大学の卒業ですので,いろいろなご指導を仰ぎながらプランニングに入りたいと,準備を進めています。加えてJR高槻駅前に新キャンパスを設置します。幼稚園から小,中,高校,大学,大学院,成人対象の生涯学習と,生涯を通じた教育を可能にする構想を推進しております。

 また,安全デザイン学部というような学部の創設を考えております。危機管理を通じ安心安全の社会づくりに貢献する人材養成を考えています。日本には台風,地震,津波など危機が多いのに,対応する人材を育成する国の制度がない。危機管理に対応する国家資格の制度がない。それを大学でやりたいと思っています。

 それから,大学ホールディングス構想があります。高槻に進出いたしました関西大学,大阪医大,大阪薬大などが,経営はそれぞれの軸足に置いて,お互いに協力,交流しようという内容です。

 関西大学は,日本の大学で初めてアイススケートリンクをつくりました。試算しますと,新聞やテレビに報道されたPR効果が大きく,近畿経済に及ぼした波及効果は実に16億6,552万円でした。建設に8億円かかりましたが,とうに凌駕したと思っています。

目を離さず,手を離す

 日本には,言葉は悪いのですが,「3大強迫産業」があると言われております。医療,宗教,教育がそれで,3つの共通点があるとされます。

 1つは,いずれも特殊法人で税制面が優遇されている。2つ目は,サービス対象者が常に不安を抱えている。3つ目は,後々の責任を持たないということだそうです。特に,3番目のことが教育にあってはおかしいと考え,昨年10月,関西大学卒業生の生涯就業支援策を発表しました。次に今年4月,社会連携センターをつくりました。卒業者が何か聞きたかったら戻って来い,そしてリニューアルして社会へ出てくれ,という趣旨です。授業料はとりません。関西大学は責任を持つ学校でありたい,という姿勢で臨んでおります。

 ともかく,親が教育の消費者,つまり,お金さえ払えば,教育は学校がやってくれるという考えになっている現状が,いじめなどの問題を惹起しているのではないかと思います。

 子どもの教育の最終的責任は家庭にあるという中教審の答申のごとく,私が本日のテーマにいたしました父母の理想像というものは「大学に捨て子をしない。そして目を離さずに,手を離す」。こういう父母であってほしい―というのが結論であります。