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2006年10月13日(金)第4,134回 例会

未来に於ける社会と人々の暮らし

庄 野  晋 吉 君(ガラス工業)

会 員 庄 野  晋 吉 (ガラス工業)

1940年生まれ。'64年慶応義塾大学工学部卒業,同年日本板硝子(株)入社。
'94年同社取締役。'00年同社代表取締役副社長。'02年副社長退任,特別顧問。同年日本板硝子材料工学助成会理事長及び科学技術振興機構(JAT)アドバイザー就任,現在に至る。'02年当クラブ入会。PH準フェロー・準米山功労者。

 住友グループの中に,65歳以上で部長以上の経験者という条件の人間で作る会があります。その会で昨年,「100年後の予測をやろう」という話が出ました。グループ5社がそれぞれ担当したなかで,私どもが担当した分をお話しいたします。

100年前の予言

 まず,100年前はどうだったのか。1901年(明治34年)1月2日,3日の報知新聞に「20世紀の予言」というのが出ました。100年後の予測です。例えば,「ロンドンの友人と無線電信・電話により対話ができる」。1901年末にマルコーニが大西洋横断の無線通信に成功しますが,このときはまだ分かりません。「電話口には対話者の肖像現出装置ができる」は,できています。「20世紀末には世界一周には7日間で足りる」では,ライト兄弟が有人飛行に成功するのは1903年ですから,大した予測です。「東京・神戸間は2時間半で行ける」。当時の新橋―神戸間の最速急行は20時間かかっていました。「蚊・のみは滅亡する」など,やや外れもありますが,よく当たっています。

 100年前は,専門家が集まって予言されたそうですが,今回は住友主要各社の技術陣がまとめました。世界情勢,家庭生活が本日のテーマですが,この話をまとめる基本的な考え方として,明るい未来が期待できるようにまとめております。

宗教と民族の行方

 世界情勢では,宗教間の対立は,しばらくは継続するでしょう。文化と文明について,技術・物質的な所産を文明,精神的所産・宗教・道徳などを文化と位置づけました。世界はグローバル化が進み,ほとんどが同一の文明にあるといえます。ところが,文化は,多様に分かれています。イデオロギーの戦いは終わり,宗教とか民族の争いが続いています。

 宗教の問題は主に,2大宗教のキリスト教とイスラム教にあります。ともに一神教で相容れません。世界人口で,1900年にキリスト教は32.2%,イスラム教は12.3%の比率。このときの人口は16億5,000万人。100年後の2000年には,人口は4倍の62億人。キリスト教は31%,イスラム教は19.6%。100年後は110億人。増えるとされるのはイスラム教の諸国です。

 宗教上の争いの中心は,イスラム教徒の過激さと言われます。その原因は,イスラム諸国に中核になる国家がないこと,そしてイスラム諸国の出生率の高さと年齢バランスの悪さ。イスラム諸国は若年層が20%を越え,歴史的に,若年層が20%を超える国家は社会が不安定になるといわれています。

 では,今後の予測は ―― 。ハーバード大学教授で米国の国家安全保障会議コーディネーターのサミュエル・ハンチントンという方が,「人間は年齢が高くなるにつれて激情は沈静化していく。イスラム教徒も,50年たち60年たてば必ず温和になって,キリスト教と共存の道が開かれていくだろう」という予測をされており,期待したいと思います。

 一方で民族間対立もあります。人口は2100年には110億人になりますが,人口の80%が低所得,あるいは中所得になります。進歩した科学技術を経済的弱者が享受できなければ,民族間で生活・健康・知識に格差ができて,その不満が強大になって対立は起き,激化するでしょう。

 人類はどう解決するのか。その手段としては地域ブロック化の進展です。国家や民族の離散と集合が続いた後,経済的及び政治的な理由で,EUのようにブロックでまとまり,新しい世界連合を求め,その世界連合のもとで対話が進むと考えています。

衣食住の変化

 続いて,家庭生活の予測。人間は大体100歳から110歳ぐらいまで生きるようになり,人体の機能を補助するような装置ができるでしょう。体温の上昇や発汗に対応する衣服,外気温・湿度・降雨・太陽光に対応した衣服ができるはずです。食事面では,好きなものを好きなときに好きなだけ食べる。つまり,食料問題は人工合成手段で完全に解決されるでしょう。住宅では,太陽熱・地熱を利用した自動調光・自動換気が備えられ,水の再利用とかごみの再資源化など完全リサイクルが実現されて,廃棄物はゼロになっているでしょう。

 人工知能を持ち,主人の感情や考え方を理解して対話しながら自動で走る車。長距離では,時速1,000キロで減圧パイプの中を走るリニアモーター列車。加速・減速を入れて東京―大阪間は30分です。海外への移動のような超長距離では,重力を利用した地中のパイプによる輸送形態ができているでしょう。さらに進めば,物質を瞬時に移動させられるという量子力学をベースとした量子テレポーテーションや,重力コントロールの実験も始まっているでしょう。

 また,DNAの解析から,病気リスクを発症する前に治療するテーラーメイドの医療。子どものDNA鑑定で個人別に長所を伸ばすようなテーラーメイド教育が行われるでしょう。バーチャル技術が発達,現地に行かない疑似体験が楽しみになるでしょう。バーチャル技術と融合して精神カウンセリングの分野が,大きなビジネスになっている。

 冬眠技術が進歩すれば,お聴きになっている方の何人かは100年後も生きておられる可能性がある。平均寿命が100歳とか110歳になれば,一生で3種類ぐらいの職業に就くのではないでしょうか。若いころはビジネスマン,中年で医学,70歳を過ぎたら芸術家。100年を超える人生がとても多様で楽しくて,生きがいのある毎日になっていくと考えています。