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2006年9月29日(金)第4,132回 例会

三味線がかたる日本の情

渡 邉  浩 子 氏

大阪音楽大学 講師 渡 邉  浩 子

大阪音楽大学大学院修士課程で,日本音楽,西洋音楽,民俗音楽について学び,清元についての修士論文をまとめる。清元の演奏家として活躍する一方,小唄と端唄の師範免許を取得し,演奏活動をおこなう。三味線音楽についての研究成果を論文にまとめ,2003年9月神戸大学学術博士号取得。現在,大阪音楽大学の講師として日本音楽や楽器学などの授業を担当している。

 本日は,伝統のあるロータリークラブでお話をさせていただくということに,心から感謝いたしております。どうぞよろしくお願いいたします。

三味線の伝播

 私は,清元,小唄,端唄の演奏家として活動をしながら,研究者としても博士学位を取得しまして,日本音楽の研究の分野でも活動を続けております。

 私は常々,日本音楽の中で,伝統的な演奏家の方に,歴史などを研究する姿勢があまりなかったと感じていました。

 このため,学校教育の中で,和楽器を,伝統音楽を取り入れようという動きがありますが,現場で思うようにいかないということの要因になっているのではないかと考えまして,まず,自分が演奏のプロとしての力量を持ち,それから歴史を研究するというスタンスが必要ではないかという志を,20年前に持ちました。

 三味線の概要をお話しいたしましょう。三味線の祖先は西アジアにあります。これが,中国を経て,日本に渡ってきました。日本伝来は,1500年代の半ばで,最初に三味線がたどり着きましたのは,大坂の堺の港ではないかとも言われております。

 その大坂で起こった三味線音楽が,名古屋を経て江戸に入り,全国へ広がっていきました。そして,大坂は大坂独特の三味線音楽,江戸は江戸の独特の三味線音楽が,1600年代末から1700年初頭にかけて築き上げられてきました。

 やはり文化は大坂と江戸を往来しておりまして,江戸の三味線音楽と,大坂でできた上方の三味線音楽が融合されて,土地,土地の独自性を表現しながら,江戸時代,三味線音楽は大成しました。

劇場から四畳半まで

 こうして日本全国に広がった三味線は,劇場音楽から民俗芸能まで非常に幅広い分野で活躍しています。

 劇場音楽としては,歌舞伎ですとか文楽,素語り。素語りといいますのは,歌舞伎や文楽の伴奏音楽としてではない,もっと大規模な形で,三味線の演奏だけを聞く劇場音楽です。

 家庭の子女の習い事では,地唄という上方の代表的な三味線音楽があります。非常に上品な音楽です。宴会などのお座敷でやる唄には,端唄とか小唄があります。

 さらに,極小空間で密やかな音を楽しむというジャンルに,小唄があります。小唄は,ばちを使わずに指で弾きますので,四畳半ぐらいでしっとりとやるのがいいかな,というジャンルです。

 非常に密やかな音の中にも,すばらしい表現があると私は考えております。

 また,民俗芸能としての三味線では,今,津軽三味線が非常に流行しておりますが,三味線にはあのように打楽器的に演奏表現する可能性もあるのです。

 各地の民謡の伴奏としても三味線は活躍し,都市における民俗音楽ということで,浪曲ですとか,そういうふうなものの中でも三味線は活躍しています。

 このように見渡してみますと,三味線という楽器は,非常に多種多様な分野で活躍することができる表現力を持った楽器といえます。

感情を切々と表現

 なぜ三味線は,いろいろな場面で活躍することができるのか。

 3本の糸しかない小さな楽器ですが,非常に豊かな音色,小さい音から大きな音まで弾くことができる。そして,その音色が人間の感情を切々と表現できるところに活躍の要因があるのではないかと考えています。

 大勢で大規模に演奏する場合もありますが,きょうは,ひとりでできる範囲の三味線の多彩な表現の一端を皆さんに聞いていただこうと思います。

 演奏曲目は4点用意いたしました。初めに小唄の「梅は咲いたか」という曲。端唄でもよく演奏され,皆さん,良くご存知の曲だと思います。

 小唄と端唄は,どのように違うのかとの質問をよく受けます。小唄は,ばちは使わず,唄につかず離れずひっそりと弾きます。端唄は,ばちで弾くので音が大きく,唄と一緒の旋律を奏でる部分が多いのです。

 (演奏)

 次は清元の「浮かれ坊主」という曲。「チョボクレ」というところのみを抜粋しております。

 江戸時代の門付け芸に,三味線の伴奏でおもしろいことを語りながら皆さんを楽しませるというものがございまして,それを清元が取り入れたものです。

 非常に女好きのお坊さんの話で,初体験から,だんだん女性が忘れられなくなっていくという楽しい内容です。

 (演奏)

 小唄の「心して」という曲は,男性の添い遂げられなかった思いを切々と密やかな音によって歌い上げる,小唄の名曲です。

 (演奏)

 最後に,清元「三千歳(みちとせ)」という曲。この曲も清元では名曲で,さきほどの曲とは異なり,今度は女性の非常に激しい切々とした恋の思いを語っております。

 (演奏)

 こうした演奏で,三味線によるさまざまな情景,感情の表現の一端をお聞きいただければいいかと思います。

 ありがとうございました。