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2006年5月12日(金)第4,113回 例会

旧暦はくらしの羅針盤

小 林  弦 彦 氏

旧暦研究家 小 林  弦 彦

1938年大阪出身。'62年関西学院大学卒業。同年(株)クラボウ入社(最終役職 常務取締役)

 私は現役時代からクラボウの広告塔として会社公認で全国各地に赴き,旧暦の講演をしております。今日,おみやげに用意した「旧暦カレンダー」では実用新案をとっています。日本は明治維新からわずか5年目の明治5年12月3日をもって,明治6年の元旦としました。1カ月早めたのです。当時のお上は脱亜入欧,富国強兵ということで,旧暦を時代遅れとし,新暦を早く普及させようとしました。旧暦はそれ以来,日本には存在しないことになりました。

今年は13カ月,385日

 きょう5月12日は,旧暦の4月15日です。今年は旧暦で言えば1年が13カ月,385日です。秋が7月,閏(うるう)7月,8月,9月と,4カ月ある非常に変わった年です。世界には太陽暦やイスラム教の太陰暦があります。中国で開発されたこの暦は日本では陰暦と言いますが,正確には「太陰太陽暦」なんです。基本的にはイスラムの方々の陰暦と同じです。

 われわれが使う太陽暦は1年が365.2425日ですが,イスラム教の1年は354日です。お月様は1カ月に29.53日で回ります。そんな月はできないので,「29日で小の月が6回」「30日で大の月が6回」とし,合わせると354日になるのです。ところが,354日のまま放置しますと,16年たつと冬至と夏至が逆転します。太陽暦と陰暦の差は11.25日,16年だと180日になるからです。中国で4000年前に開発されたのが太陰暦ですが,冬至と夏至の逆転現象を防ぐために19年に7回,閏月といって同じ月を2回もってくる暦を開発したのです。奇しくも同じ暦法を使っているのがユダヤ教です。イスラエルでは今でもユダヤ暦が年中行事の基準になっています。

 日本では604年,聖徳太子の時代に正式に暦を採用しました。それ以来,明治5年まで1269年間,日本は旧暦を使っていたのです。日本にはいろいろな年中行事がありますが,新暦に変える際,当時のお上は,旧の日付をそのまま新の日付にするという簡単な解決法を考え出した。これが現在われわれ日本人の季節感を誤らせるもとになっているのです。

3つの基準で季節感が変に

 旧暦では1~3月が春。4~6月が夏,7~9月は秋,10月から先が冬です。それで19年に7回,閏月が1~3月か,4~6月か,7~9月か,10月から先に入るかで,日本の気候が大きく変動するわけです。ことしは奇しくも7月が2回来ますから,秋が非常に長いのです。

 旧暦の日付をそのまま新暦の日付にしたため,お正月の年賀状に新春とか賀春とか迎春とか,春という言葉を使うのです。これから寒くなるのにおかしいですね。

 五節句というと,七草がゆ,雛祭り,端午の節句,七夕,重陽の節句ですが,現在われわれは新暦の日付でやっています。新暦の1月7日で七草が全部そろうはずがない。デパ地下やスーパーで売っているのは全部温室栽培です。3月3日桃の節句も梅しか咲いていない。12月3日をもって1月1日にしたから,旧暦のほうが1カ月遅い。その季節を無視して,桃の節句をしているのです。

 5月5日の端午の節句はどうでしょうか。旧暦では5月は梅雨です。6月は水無月と言いますが,水の無い月です。この旧暦時代の月の名前を現在の新暦に書くからおかしいことになる。旧暦を知らない小学生のときに,「6月は梅雨の最中なのになぜ水の無い月と書くのか」と先生に聞いてもわかりませんでした。5月の端午の節句は旧暦では梅雨の行事です。こいのぼりは魚です。晴れた青空になぜ魚が泳いでいるのか。鯉の滝登りですから,5月5日の端午の節句は梅雨の行事だったのです。

 7月7日の七夕ですが,旧暦では1日は真の闇で,それが三日月になり,上弦の月になり,それから満月になります。7月7日のお月さんは半月,弓張り月です。7月7日のお月様の明るさは満月の12分の1です。だから天の川がはっきりと見えて,牽牛と織り姫がデートできる。新暦の7月7日は梅雨の終わりの時期で,たとえ晴れても満月だと天の川は見えません。

 どうも現在の暦は矛盾点があるということで対策が考えられました。現在の日本には年中行事の基準が3つもあります。

 1つ目は,お上の行政命令どおり旧の日付をそのまま新の日付にした。2つ目は,中秋の名月というのがありますが,旧暦は7,8,9月が秋なので,真ん中の8月を中秋といいます。旧暦では15日は必ず満月です。この中秋の名月をお上の命令どおり新暦の8月15日にすると,満月になるのは30年に1回になります。そこで,これだけは旧暦の8月15日を新暦に換算したのです。ですから毎年中秋の名月の日付が変わります。

旧暦で文化,歴史,天候がわかる

 3つ目は,単純に1カ月遅らす方法です。たとえば,奈良のお水取り。旧暦時代は2月の1日から14日にやっていたから,二月堂でやります。東大寺に三月堂もありますが,二月堂を使うのです。

 大阪の天神祭も旧暦時代は6月の水無月。夏の一番終わりに全国で夏祭が集中したわけです。6月25日に天神祭をやっていましたが,新暦の6月25日にやると,ほとんど雨の中になるので1カ月遅らせました。月遅れのお盆の8月15日も旧暦では7月15日でした。

 仙台の七夕祭も8月6,7,8日ですが,同様です。年中行事の基準が3つあることが混乱を招いているのです。旧暦をよく学べば気候を読めます。今年は秋が4カ月あるから天候が非常に乱れる。例えば今年の夏は非常に暑いと思います。旧暦での私の予測をある程度信じればクーラーやビールを増産すれば儲かるのです。旧暦を知れば,歴史も古典も,天候もよくわかるのです。