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2006年1月27日(金)第4,100回 例会

日本21世紀ビジョン

吉 田  和 男 氏

京都大学経済学部
教授
吉 田  和 男

1948年生まれ。'71年3月京都大学経済学部経済学科卒業,同年4月大蔵省入省。'76年田辺税務署長,'83年主計局主査。'85年大阪大学経済学部助教授。'87年京都大学経済学部助教授。'88年京都大学経済学部教授,現在に至る。'02年JR西日本監査役(兼),金融庁顧問(兼)。京都東RC会員。

 今日は経済財政諮問会議の日本21世紀ビジョン専門調査会の報告書についてお話します。この委員会は竹中経済財政担当相(当時)の元で2004年9月から議論を始め,05年4月に報告書を提出しました。小泉構造改革後の目指すべき日本経済の姿を展望したものです。経済財政展望,グローバル化,競争力,生活地域の4分野のワーキンググループがあり,30代後半から40前後の若い学者が中心になって検討しました。私は経済財政展望グループの主査として「経済全般」「財政の経済展望」「財政の見通し」をまとめました。

人口減にどう対処するか

 日本経済は2つの大きな変化にさらされます。一つはグローバル化で外国からの影響,もう一つは国内の人口減です。この人口減をどう考えるかが中心的な議論になりました。日本は予想より早く2005年から既に人口減少社会に入っています。出生率は1.29,最近の数字ではもっと低いようです。

 2030年には約1,000万人減って1億1,800万人。2050年には3,000万人減少,21世紀末には半分ぐらいになります。人口が減るというのは,戦争でもない限り歴史的に見ても極めて例外的なことなのです。これがずっと続いていくところに非常に大きな問題があるのです。人口は若い世代から減りますから高齢化を伴うことになります。

 男女の人口を左右に棒グラフにして,縦に年齢をとりますと,人口が増えていく状態はピラミッド型になります。今は釣り鐘型で,私たち団塊の世代が一番出っ張っていて,第2次ベビーブーム世代はその下でちょっと膨らんでいます。問題は第3次ベビーブームが起こっていないことです。

 よほどの政策なり社会の変化がない限り,人口の予測ほど当たるものはないのです。高齢化率ですが,今65歳以上の人口の比率は19.9%ですが,2030年には29.6%になる。しかも,75歳以上の後期高齢者が8.9%から17.8%になる。これはなかなか辛い問題です。

1%成長でも消費の水準は維持

 人口が減少するというのは働き手が減るわけですから,経済成長率は低下します。これまでは若い時に働いて貯金し,高齢者になって引退して貯蓄を取り崩すというのがごく常識的なことでしたが,高齢化率が高くなると貯蓄率も下がる。日本の高度経済成長は家計の貯蓄を産業資金として活用して経済が成長したのです。貯蓄率が下がると産業資金の面でも問題を引き起こすのです。従って,あまり高い経済成長率は望めなくなります。

 報告書では2030年までの平均的な成長率を1%台半ばと予測しました。今年度の経済成長率は2.7%の見込みで,来年度は1.9%です。長期的には不況,好況がならされ,その平均値が1%台半ばということになるわけです。

 ただ,人口が減っているので1人当たりでは2%程度となります。消費生活をみると,今1年間の平均的な消費額は230万円ですが,2030年には380万円になる。1%成長でも,25年続くと結構伸びるのです。国民生活の水準は維持されると予測しています。

 しかしながら,この1%台半ばの経済成長を維持するには,生産性の向上が基本になります。小泉改革で規制緩和等を行い経済の活力を引き出す必要があります。もう1つの大きな問題は,高齢者の多くが引退することによるトランスファー(移転)です。これは財政の仕事です。主として年金・医療です。医療費は高齢者とそうでない世代で非常に大きな差があります。事実上,医療保険は世代間で所得を移転するという関係になっているわけです。2005年の社会保障給付の支出はGDPの15.4%ですが,2030年には20.5%に上昇します。GDP比で5%の増加というのは大変なことです。500兆円の5%ですから25兆円,それだけ移転しなければいけない。公的年金はマクロ経済スライド制により給付割合を調節していくことになっていますが,医療・介護は今6.4%のGDP比が12.8%に上がります。医療改革は引き続き重要な問題です。

 お隣の中国は10%ぐらいの成長を続けていきます。2014年に日本は中国に抜かれ,2030年にインドに追いつかれます。アメリカはどんどん先を行ってしまう。アメリカは出生率が2.2%と高いので人口は増えていく。技術革新も非常に活発で,潜在成長率は高いのです。

医療,年金制度改革が不可欠

 日本の政府債務残高はGDP比で150%に達しています。大体どこの国でも100%ぐらいでピークアウトしています。財政状況が悪くなると,どこの国も懸命に財政再建に取り組みます。そしてGDP比が下がるというのが世界各国での現実なのです。財政改革を全く行わないと,2030年には230%になりますが,この予測は絶対当たりません。なぜならそれまでに経済が破綻するからです。

 政府は2010年代の初頭にプライマリーバランスを収支トントンに持っていく目標を設けています。歳出を抑制するには医療制度なり年金制度を変えて歳出を削減していくことになります。大部分の歳出にはそうした制度改正が必要なのです。だからこそ構造改革なのです。プライマリーバランスを歳出削減だけで達成するにはざっと20兆円削る必要があり,現実的には難しい。

 増税も考えざるを得ないわけです。消費税の引き上げは不可避でしょう。消費税の引き上げ幅は5%プラスαか,10%プラスαを想定しています。報告では人口減対策として「就労の仕組みの工夫」と「財政支援策」を提案しています。ご静聴ありがとうございました。