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2005年12月9日(金)第4,095回 例会

宇宙から見た地球

畚 野  信 義 氏

(株)国際電気通信基礎技術研究所
代表取締役
畚 野  信 義

1935年生まれ。'59年京都大学工学部卒業,'61年同大学大学院修士課程修了。同年郵政省(現総務省)入省。'89年通信総合研究所長,'93年退官。'93年東海大学教授,総合科学研究所教授。'01年6月(株)国際電気通信基礎技術研究所副社長。'01年10月同社社長,現在に至る。

 〈以下映像とともに〉

 京阪奈にある国際電気通信基礎技術研究所(略称ATR)は株式会社ですが,中身はアカデミアという世界で初めての設備です。ノーベル賞候補と言われる研究者もおり,設立以来わずか20年ですが,高い成果を上げています。

 本題に移ります。地球を観測する気象衛星は3万6,000キロぐらいの静止軌道にあり,下から見ると止まって見えます。もっと低い軌道で地球をグルグル回る観測衛星もあります。その1号は1960年に打ち上げられたアメリカのタイロスです。それ以来,地球上の気象の状況を全部把握して,台風の予報で今まで数百万人の犠牲者を救ってきました。

 冬の日本はシベリアから冷たい風が吹き込んできます。日本海から上がる水蒸気をいっぱいに吸い込んで,日本の中央にある高い山に当たり,雪を北日本にドンと落とします。そして,乾いた風が太平洋側に吹き,冬の関東平野は乾燥して冷たく寒い。映像を見れば,そうなる途中の寒そうな日本が見えます。

深刻化する地球温暖化

 多くの人工衛星が地球の上空にありますが,静止気象衛星は国際分担されています。日本の「ひまわり」,アメリカ,ヨーロッパ,そしてインドの衛星です。宇宙から地球を見る目的は大きく分けて2つがあります。「地球の表面を詳しく見る」ことと「地球のさまざまな環境を見る」ということです。

 1973年に打ち上げられた最初の地球観測衛星はランドサット1号です。当時は冷戦時代で,アメリカが最大の穀物輸出国で,最大の輸入国はソ連でした。アメリカは,ソ連の穀物地帯であるウクライナあたりの小麦生育状況を知ることでシカゴの穀物市場で非常に有利に取引したいという意図からこの衛星が打ち上げられたのです。

 次に,地球環境を見るということですが,これは別の種類の観測器,センサーを積んで地球の環境を知ることです。温暖化の問題が一番シリアスです。オゾンホール,砂漠化,熱帯雨林などいろいろ問題があります。温暖化では,最近どんどん夏が暑くなり,冬も温かくなっています。地球の温暖化に炭酸ガスが大きな影響を与えていることがわかったのは,1958年頃からハワイのマウナケアの山頂でずっと地道な観測を行ってきた結果です。

減り続ける熱帯雨林

 地球の表面温度を宇宙から測りますと,温かいところの幅がどんどん広がっています。ただ,日本の周辺でも春,夏,秋,冬といった季節による海水温の変化があります。春は黒潮の蛇行が見えます。夏になると全体的に非常に暑くなります。秋になると大分冷えてきて,冬になると瀬戸内海あたりもかなり温度が下がっているのがわかります。地球温暖化といっても年により状況は違い,上がったり下がったりしながら,全体としてゆっくり気温が上昇していく傾向があるわけです。

 オゾンホールは1980年に南極で見つかりました。オゾンホールも季節によって大きさが変化しますが,総体的に大きくなってきています。大気の上のほうにオゾンができたことで,有害な紫外線が下まで下りてこなくなって地球の上に生物が生存することができるようになったわけで,オゾンホール拡大は非常にシリアスな問題であります。

 砂漠化も進んでいます。赤道直下で砂漠化が起こるのではなくて,赤道直下は全部緑なんです。北緯,南緯ともに30度を中心にして,雨が少なく砂漠化が起こっている。オーストラリアはほとんど全部が砂漠ですし,サハラ砂漠もどんどん広がっています。サハラ砂漠も季節によって伸縮しています。雨期のころは緑がふえ,乾期になると砂漠がどんどん増え,息をしているように見えます。全体としては砂漠がどんどん増えています。

 熱帯雨林もまた失われてきています。昔,ヨーロッパは森林に覆われていました。人々はどんどん森林を伐採し,農地にし,斜面の急なところは牧草を植えて牧場にして豊かになってきました。1000年前からそうでした。熱帯雨林のある発展途上国の人々が,今同じようなことをして自分たちも豊かになりたいと思った時に,「けしからん」と言えるでしょうか。非常に難しい問題です。

 今は温暖化が騒がれていますが,太陽の状態によって今よりずっと温かいこともあり,寒いこともありました。炭酸ガスが今よりも何倍もたくさんある時期もありました。それらの変化は宇宙のゆっくりしたタイムスケールで起こり,地球上の生物もその間に自然淘汰され,品種改良し,あるいは自然に適合して生き延びてきたのです。今恐れられているのは,ゆったりとした自然のうねりの上に,人類の活動で起こった影響が人類生存の限界を超えるのではないかということです。10年単位でどんどん動いているのです。

電波で山の凹凸や海の波も分かる

 電波でも地球の別の情報が得られます。それを試みた衛星がシーサット1号です。映像レーダーがついています。電波で観測しますと,山などの凹凸や海の表面の波まではっきり見えます。サハラ砂漠を観測すると,砂の下の構造が見えてきます。20数年前に本当に見えたときは驚きました。サハラ砂漠の下には,ナイルに匹敵するような大きな川が西向きに流れていました。サハラ砂漠はかつては緑したたる平原であったと言われていましたが,それが実証されたのです。考古学的な興味も,気象学的な興味も出てきたのです。

 人類の活動は地球の上だけではなくて,外側までも広がっているのです。