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2005年11月25日(金)第4,093回 例会

サカダル コミュニケーション

辰 馬  章 夫 氏

辰馬本家酒造(株)
社 長 
辰 馬  章 夫

辰馬本家酒造(株)社長。西宮商工会議所会頭。日本酒造組合中央会会長。元西宮RC会長。

 私はこうして皆様とface to face,heart to heartでお話しすることを「サカダル コミュニケーション」と呼んでいます。世の中は地球規模でデジタル社会です。電縁というのが,離れた人たちや友達,あるいは見知らぬ人との新しい絆を生んで,地球がどんどん狭くなっていく時代です。

 その反面,世界各地にはまだまだ紛争が絶え間なく起こり,家族,地域社会における人間関係は希薄になり,お互いに助け合う心がなくなっています。私はこれを「心の過疎」と呼んでいます。

お酒で神様と一緒になる

 お互いの心をつなぐコミュニケーショングッズ,そこに酒の使命があります。

 日本酒は和の酒,お互いに酌み交わす平和の酒です。日本人は古来,人知の及ばない偉大なもの,神と一緒になれるための道具として酒を酌み交わす農耕民族です。お祭りでは神様と一緒になって御神酒をあげ,終わりますと「なおらい(直会)」という形で宴を始めたのです。

 もともとは,こうして神様とのコミュニケーショングッズであったわけです。いま日本酒は,国内ではやや停滞気味ですが,海外ではアメリカやアジアを中心にマーケットが伸びています。

 ヘルシー感覚と異文化の魅力がそこにあるのです。毎年開催しています「日本利き酒選手権大会」に今年は外国人チームが出場し,第3位に入賞しました。いつかは「世界利き酒選手権大会」を甲子園球場で開きたいと夢見ています。

 文明はどんどんデジタル社会で進んでいくのですが,心の世界はやっぱり酒樽で清めていただきたい。これが演題に込めた私の思いです。こういう思いで日々旨さと感動を育てていきたいのです。

 いきなり我田引水の話になりましたが,酒屋というのは農耕なんです。一年の計も,十年の計も,百年の計も,まず稲を植えることから始めます。我が田に水を引かないと酒造りはできませんので,この我田引水をお許しいただきたいと思います。

灘五郷は日本一の酒どころ

 お酒の定義ですが,アルコール分が1度以上の飲料は日本の法律ではお酒です。1度未満の飲料は,アルコールが含まれていてもお酒ではありません。

 酒税法上,10の分類に分かれており,そのうち清酒は,米,米こうじ,水,その他政令で定める物品を原料として発酵させて濾したもの,これが日本酒の定義です。このほか合成清酒,焼酎,みりん,ビール,ワイン,ウィスキー,スピリッツ,リキュールというふうに分類されます。発泡酒は雑酒に入ります。

 さて,お酒の製造工程ですが,農家でお米が栽培されて新米ができると,それが蔵へ入って来て精米をします。

 普通皆さんが召し上がっているお米は5%削るぐらいの精米ですが,日本酒の精米は30%以上削りますので残りは70%。吟醸酒になりますと半分ぐらい削ります。そして,それを糖化して,発酵させて,もろみを絞って,貯蔵して,熟成してお酒になる。ちょうど収穫から1年かかって皆様のお口もとに届くのです。

 全国に蔵元は現在2,000ございます。私が会社に入りました時から半減しました。私がおりますのは,灘五郷の西宮郷というところです。現在の生産高では全国の3分の1,今のところ日本一の酒どころの座を維持しております。

 三宮からJRで大阪方面に行きますと,「灘」という駅がありますが,この辺が灘五郷の中心地です。

 それから,六甲のおいしい水の「六甲道」,「芦屋」を通って「西宮」,これも私どもは「にしのみや」でなくて,「にしょうのみや」と申しております。それから武庫川を渡って,今度は「神崎川」,これは「おかんざけ」,ここでお燗ができまして,「大阪梅田」終点に着くと「おさけうめえな」となります。阪神間をJRで走っていただくとおいしいお酒に到達するわけです。

日本人のDNAを活性化

 国家に納めております酒税はビールも含めまして全酒で1兆5,000億円です。そのうち日本酒は約1,000億円ぐらいです。一升びん1本空けると,約14%は酒税です。酒税は税金の中でも一番のハッピータックスであります。

 喜びながらいつの間にか納めている税金でございます。私どもは,1662年江戸の第4代家綱の時代の創業です。343年間,多くのご愛飲家に支えられて歩んでまいりましたが,昔からお酒でもうかったという記録は残っておりません。

 私どもが比較的もうかったのは,海運でした。その利益をよりよい酒づくりに注ぐ,もう1つは地元への社会奉仕に注ぎこみました。それでできたのが甲陽学院という中高一貫の私立校です。当時の酒屋は教育事業に熱心な,いわゆる旦那衆でした。有名な灘中・灘高,これも菊正宗さん,白鶴さん,桜正宗さんの三者でつくった学校です。

 私どもはミュージアムをつくったり,街作りや環境保全活動に力を入れていますが,日本酒業界では「日本酒で乾杯」運動も展開しています。各界の有識者の賛同を得ながら,日本文化そのものを再生させていこうという息の長い運動です。

 日本人が本来心の中に持っているDNAをもっともっと活性化させて,日本文化の美意識に目覚めていただきたい。日本人が日本の心を取り戻そう。そういう活力の創出を目指しています。ファーストフードからスローフード,心安らぐ和への回帰の中で,清酒の魅力を皆さんに新発見,再発見してもらえるよう技にもっともっと磨きをかけていきたいと思っています。