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2005年10月21日(金)第4,089回 例会

石油価格高騰の構図

寺 島  実 郎 氏

(株)三井物産戦略研究所
所長
寺 島  実 郎

1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。三井物産入社,調査部,業務部を経てブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向,その後,米国三井物産ワシントン事務所長等を経て,現在(財)日本総合研究所理事長。執行役員三井物産戦略研究所所長,早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。

 今われわれが直面しています「石油価格高騰の構図」というのをお話ししたいと思います。世界のGDPの実質成長率(地球全体の成長率)は,あの9月11日(米同時多発テロ)が起こった2001年が前年比1.0%の実質成長,翌年1.9まで跳ね上がって,03年は2.6まで上がって,去年はついに3.9となります。エコノミストの中には,「今世界は人類の歴史始まって以来の高成長の同時化というサイクルの中にある」という表現を使い始めています。

世界同時好況の時代

 最近経済雑誌で「BRICs」という表現を見られると思います。これはブラジルのB,ロシアのR,インドのI,チャイナのC,複数つけて s という,実質5%以上の成長率で駆け抜けている地域というイメージですが,マイナス成長ゾーンがないんです。それは一体なぜか。まずは世に言うグローバリゼーションです。冷戦が終わって,東側と言われた地域が市場経済に参入してきました。国境を越えて,人・物・金・技術・情報が自由に行き来するような時代になってきた。そういうグローバリゼーションが進行していることが,世界経済の同時好況を持続させているんだという説明が出てきています。

 さらに言うと,やがて歴史家が今われわれが生きている時代を「戦争経済の時代」だったと総括すると思います。アメリカは非常に特殊な状況ではありましたが,テロとの戦いなるもので,アフガン攻撃からイラク戦争へと突っ込んでいって,クリントン政権最後の年の2000年に2,945億ドルだった軍需予算が,2006年には5,139億ドルに,2,000億ドル以上増やしています。戦争経済というのは,非常に不幸なことではありますが,景気を活性化する部分があるんです。

 もう1つはオイルマネー。このところ中東産油国がにわかに活気づいてきています。関西空港とドバイをつなぐ直行便というのは日本の中で非常に話題にもなってきていますが,湾岸の産油国のオイルマネーが集中して異様な建設投資ブームです。今ドバイに世界最高層の700mのビルが建っています。700mというのは尋常じゃない,東京タワーの2倍以上です。砂上の楼閣ならぬ,油上の楼閣じゃないかなと言いたくなるぐらいです。日本の株がすっと上がり始めたのにも,実はこのオイルマネーも相当入ってきています。

 このエネルギー価格の高騰,きょうの話の照準がそこにくるわけです。日本経済にとって重要なのは実際に日本の港にたどり着いている原油の価格なんです。日本の経済上の弱点の1つがエネルギーの外部依存の高さ。

 1999年,わずか6年前ですが,日本の水際にたどり着いていた石油価格はバーレル16ドル90セントでした。円換算では1,925円払って1バーレルの石油を入手していた。直近の8月には55ドル33セント。つまり日本は6,186円のお金を払って1バーレルの石油を入手している。3倍以上になっている。73年とか79年のときに石油危機と言っていたのに比べると,価格の上昇はそのときに匹敵するぐらいの価格が上昇しているにもかかわらず,危機感がない。

円換算の原油価格と省エネ

 幾つか理由があります。1つは円高にシフトしてきているため,円換算の原油価格が為替によって吸収されている。もう1つはエネルギーの利用効率の改善です。日本のエネルギーの利用効率,省エネ技術は大変なものです。ざっくり言って今アメリカの1.5倍,中国の3倍強です。エネルギー価格の高騰は,エネルギー利用効率の悪い地域にほどインパクトが強く出てきています。中国の石油消費は03年に549万BD(日量バーレル)まできた。日本の542万BDを追い抜いて,中国が世界第2位の石油消費国になったと騒いでいた数字がこれです。去年はさらに638万まで増やした。しかし,輸入は03年が185万BD,去年は246万BD。日本の540万から550万は全量輸入です。まだ中国の石油輸入は日本の半分です。

 石油供給力にでも不安があるのかというと,そうでもない。7%成長のロシアというのが見えている。この高度成長の理由は石油生産なんです。また,安定的に石油を出しているのは北海です。ノルウエーと米国も,600万から650万。中東の地勢学的な不安なんて表現する人もいますが,あのイラクでさえ,石油収入確保のために,200万BDから250万BDは出しています。だったら何でそんなに上がっているのかというところに返ってきます。

需給よりも投機要素の高騰

 そこで投機的な要素というのがあるんです。今朝の日経新聞でも,「先物の石油価格が60ドルを割った」という報道が出ています。先物の原油価格はという報道に必ず「WTIでは」という指標が出てきます。WTIのWTはウエストテキサス,つまりヒューストンのことです。ヒューストン地域の石油価格,本来は極めてローカルな指標なんです。このWTIがニューヨークの商品市場に上場されて,オンラインで1日2億バーレルを越す石油が取引されている。要するに実際の需要や供給のファクターでエネルギー価格が決まってるんじゃない。コンピュータの中を短期の資金が駆け巡って,マネーゲームの対象として石油の価格を形成するメカニズムがどんどん肥大化してきた。

 それが日本産業にどういうインパクトを与えているのか。原材料・資財の高騰を最終製品価格に転嫁できず,ゆがんだ経済構造の中にあるというところや,その先も含めて大変熟慮を要するところだということを申し上げて,話を終えさせていただきます。