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2005年9月9日(金)第4,084回 例会

脳ドックの話

早 川   徹 氏(外科医)

会 員 早 川   徹 (外科医)

1934年生まれ。'59年大阪大学医学部卒業, 第二外科入局。 '68年日本脳神経外科学会専門医, '90年大阪大学脳神経外科教授, '96年医学部附属病院長,'98年関西労災病院長を経て, 現在大阪大学名誉教授,関西労災病院名誉院長・特別顧問。 日本脳神経外科学会, 日本脳卒中学会, 日本脳ドック学会などの名誉会員。 当クラブ入会'91年11月。

 脳ドックといっても新種の犬の話ではありません。脳および脳血管の健康診断のお話であります。まだ症状が出ていない,発症していない脳および脳血管の異常を早く見つけて対策を立てる。できるだけ発病を防ごう,そういう取り組みであります。

病気を「不発弾」のうちに処理

 脳卒中を発症して患者さんが救急で担ぎ込まれ,必ずしもいい結果を生めないという辛い現実に直面している脳神経外科医には,この脳血管の病気を何とか見つけ出して,不発弾を爆発しないうちに処理できないものかという念願がありました。これらの医師の主導でこの脳ドックという取り組みが開発されてきたわけであります。

 脳ドックは1980年代後半に取り組みが始まり,1990年ぐらいから普及してきました。これはある意味,日本で開発された診療で,MRIとかCTなど高額医療機器が全国に整備されている日本でしか普及していない日本特有の健康診断の取り組みと思っております。まず,血液,尿,血液生科学検査などによって,高脂血症や糖尿病などを持っておられるかチェックさせていただく。さらには血圧,心電図などの検査。頸部の血管超音波検査という血流の検査。MRIの検査で頭の形の異常,組織異常を見る。いずれも非侵襲的といいますか,痛み,危険を与えることなく検査するわけであります。

 料金は3万円から5万円ぐらいで,保険は通らない。20万円ぐらい取っているところもあります。半日で済むコースが多いんですが,1日泊まりというコースもございます。

 代表的な異常では,まず無症候性の未破裂の脳動脈瘤。50代以上の方に検査を受けていただくと,その2~3%ぐらいに見つかります。動脈瘤は脳卒中の一種であるくも膜下出血の原因で,頭をどつかれたみたいな痛みで発症する。程なく意識がなくなって,10%ぐらいの方々が即死状態で,あとは色々な治療をしても,30%~50%ぐらいは何らかの神経症状,障害を残して社会復帰が困難になると言われております。何とか破裂する前に,いわゆる不発弾の段階で処理したい。それが予防治療の一つの取り組みであります。

 これは内科的な治療が主ですが,いわゆる脳卒中の危険因子である高血圧症であるとか,糖尿であるとか,高脂血症の治療をしていただく。タバコや過度の飲酒をやめていただく,ストレスをできるだけかからないようにして,危険因子をコントロールする。無症候性の脳腫瘍は大体0.3~2%ぐらい,お年を召してくると2~3%発見される。経過を見ながら必要があれば手術する。最近では,ガンマ線を腫瘍に当てて大きくなるのを防げるガンマナイフという装置が開発され,開頭しないで処理する方法もできてきました。

予防的治療には効果とリスク

 ただ,手術的治療というのはやっぱりリスクを伴います。例えば脳動脈瘤は,破裂してからの手術は大変難しい。破裂してない状態の脳動脈瘤を治療するのは比較的安全に処置できる場合が多いわけでありますが,0%~1%の方がお亡くなりになるとも言われます。また3%~5%ぐらいは,症状がない内に手術させていただいて,そのために手足のしびれなど後遺症を残す場合もあります。未破裂の症状のない方を予防のために治療するのに果たしてどれだけの意義があるのか,どれだけその個人に有意性があるのか。実際には,破裂しない状態で一生終わられる場合も多々あるわけであります。

 未破裂の動脈瘤は一生のうちにどのくらい爆発しているかというと,大体一番初めは3%ぐらい,そうすると10年たつと,30%は見つかった動脈瘤は爆発するだろうというようなことを考えられたわけでありますが,その後いろいろな調査で1%ぐらいであろうとか,最近日本の調査によりますと0.7%。そうすると予防的手術で0%~1%の死亡のリスク,あるいは3%~5%の合併症・障害発生のリスク,どちらか慎重に考えなくてはならない。無症候で未病の疾患を見つけることは容易になってきたが,異常を発見したら何でもとりましょう,という医者にはあまりかからないほうがいいと思います。

社会奉仕に努め,成熟した終末

 認知機能検査についてでありますが,「あれ,あれ」と代名詞がふえている程度では痴呆ではありません。それによって社会生活とか日常生活が困難になる,記憶障害,認知障害といって判断力,理解力,計画力がない,そういうような状態でもって痴呆というふうに言うわけでありますし,最近その痴呆の検査が流行であります。高齢化で脳機能は退化するわけですが,上昇する脳機能もある。蓄積された知識や体験を活かして,高度な判断を下す能力,洞察力などは歳と共に向上すると言われています。高齢者も社会的にいろいろな役割を担っていかなくてはならない,社会に奉仕していかなくてはならない。ロータリー精神はそういうところにあると思います。

 人間の寿命というのは120歳が限度ではないかと言われております。それに至るまでできるだけ心身の健康を維持する,脳の健康を維持する,未病の状態で異常があっても病気として発病することがないように積極的に取り組む。それが一つの脳ドックの意義ではないかと思います。成熟した終末を迎えるように,何とか積極的に高齢化社会には取り組んでいく。そういうことの努力が,医学として医療として必要である。そういうわけで脳ドックも役立つことができればいいというふうに思うわけであります。