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2004年11月26日(金)第4,048回 例会

国際会計基準に対するわが国の対応

平 松  一 夫 氏

関西学院大学 学長
国際会計研究学会 会長
平 松  一 夫

1947年生まれ。 '75年関西学院大学大学院商学研究科博士課程修了。 '77~ '79年ワシントン大学に留学。'85年関西学院大学商学部教授に就任。'91年グラスゴー大学客員教授,'02年関西学院大学学長に就任。
《公職》公認会計士・監査審査会委員,(財)関西生産性本部副会長,金融庁・企業会計審議会委員,国際会計教育研究学会副会長,その他公職多数。

 IAS(国際会計基準)にどう対応するか。結論を先に申しますと,否応なしにわが国もこの方向に行かざるを得ない。わが国の企業会計の考え方からすると相入れないものが多分にあります。しかし,結局そちらに行かないと日本の企業が困ることになります。

IASB設立と日本の動き

 まずIAS=IFRS(国際財務報告基準)に対する支持の拡大があります。アメリカ,ヨーロッパが既に支持。EUが来年からIASを強制適用しようとする中で「2005年問題」と言っているわが国も,2年間の猶予期間があって07年に対応しないと駄目です。日米欧が世界経済の動向を握っていますが,そのうちヨーロッパとアメリカが国際会計基準に同調すれば,大勢は決まるわけです。

 IASC(国際会計基準委員会)が73年にでき,世界の公認会計士協会が構成員となって,国際会計基準をつくってきました。しかし民間団体で強制力はない。そこで各国の会計基準をつくっている団体をメンバーとして,IASB(国際会計基準審議会)につくりかえようという議論がなされました。

 戦略作業部会というのが,97年から99年にかけて行われました。実はアジアから私が出ました。会議に行きますと,イギリス,アメリカ,カナダ,オーストラリアというアングロサクソンはもう一体化しているんです。ドイツとフランス,日本は少し意見が違いますが,フランスは「次の会議では(アングロサクソンに)乗るよ」と言い,フランスが乗ったら,ドイツも乗ると言いだした。

 日本はどうするの?私はあちこち走り回りましたが,なかなか動かない。ついに動くのは,ドイツより1年ぐらい遅れてからです。01年4月に改組されましてIASBが創設。世界の会計基準を設定したい,つまり権限を持った人が集まった会議体ができました。

 日本でも企業会計基準委員会を設立しました。昨年5月の公認会計士法改正ではさまざまな改正点があり,会計士の職務・職責が明確に規定されました。また国際教育基準を導入したカリキュラムをつくろうと申し合わせました。その結果,10のアカウンティングスクール(会計専門職大学院)ができ,来年スタートします。倫理性と専門性が高く,きちっと国際的にも通用する会計人の育成をしようという動きになってきたわけです。

IASBの概要

 IASBには理事会があります。この中で常勤の一番下にMr.Tatsumi Yamadaというお名前がございます。理事会の14人の中に,日本から山田辰巳さんが出ているので非常に救われています。国別構成は北米5人,欧州6人で,ほとんどこれで占めているんです。アジア太平洋が2,その中に日本が1人入っています。その他1は南アで,イギリスの影響下にあります。ということは,アングロサクソンの国々,思想的文化的に同じ国々が集まれば,多数決でいけるんです。よくこの局面に出合いました。

 次に会計(教育)の国際化ですが,私がお話ししたい大きなポイントの一つは,教育の世界も牛耳られていることです。会計学の教員に,アメリカのPh.D.がいかに多いか。ソウル国立大学の博士6人のうち5人がアメリカで博士号を取っています。高麗大学は博士8人全員,国立台湾大学も博士15人全員です。 日本の会計学の世界で,アメリカでPh.D.を取って帰ってきた人の総数は5人ぐらいかなと思います。ほかの国の一つの大学に及ばない。アジア各国に行きますと全部アメリカと同じ発想です。その人たちが次の世代を教育しているわけです。

わが国としての対応

 05年問題の繰り返しですが,日本は大変なんです。アメリカに上場しているからアメリカ基準,ヨーロッパは国際会計基準,国内は日本基準と,ダブルスタンダード,トリプルスタンダードの問題。どうしたらいいか。

 ことしに入ってさすがに大きな動きがありました。経団連は欧州の産業連盟と共同声明を出しました。国際会計基準の中には産業界のニーズを反映していないものがあるよ,ということをきちっと言おう,ということです。それからIASBのガバナンスの改善,これは委員構成です。もう一遍,日本から問題提起をして委員構成を考え直す,これは言えばいいと思います。それから会計基準の相互承認の必要性。つまり日本と特にヨーロッパとの間でお互いの基準を認め合えば,日本基準で持っていってもいいわけです。しかし長期的にはこのバージョンは一致させましょうということを経団連も言ったわけです。

 私が座長を務めさせてもらって,経済産業省から「企業会計の国際対応に関する研究会・中間報告」が6月に出ました。そしてコンバージェンス(収斂)に向けた協議が10月12日に開始されました。かなり否定的なトーンを持っていた日本が,いよいよIASB国際と一緒に考えましょう-となってきました。

 文化的な背景,基本的な会計の考え方が違いますが,大きな流れとして日本はIASBと一体となって何が正しいかを求めていくという方向を取らないと,ますます孤立化して,これから日本は尊敬されない。信任を得るためには,その方向で産業界の方々も特にご協力を賜りたい。お力添えを賜らないと,できないというふうに思っております。