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2004年7月30日(金)第4,033回 例会

上方落語の基礎知識

桂  米 二 氏

落語家 桂  米 二

1 957年京都生まれ。 ’76年に桂米朝に入門。 面白くてリズム感あふれる落語を目指し, 「上方落語の正統派」と呼ばれる。 特技は, 鼓, 義太夫。

 落語は大衆芸能と呼ばれております。漫才や漫談という寄席芸と一緒なんですけども,漫才とはちよっと一線を画している部分があります。落語は300年以上の歴史を持ち,職業として噺家(はなしか)が現れたんが元禄時代でして,江戸と京都と大坂でほぼ同時に3人のプロの噺家が登場しました。

 落語は「枕」という世間話から始めます。その後,ネタというのに入りますと,これはお芝居でして,私が落語をやる場合でも,私がやってるんじゃない。登場人物がセリフを言うているわけです。1人芝居なんです。芝居と違うところは,落語の場合は扇子と手ぬぐいだけですべてを表現します。お芝居の場合は背景もありますし,衣装もつけています。どんな役の人がなんで出てきてるかというのはすぐ分かります。一方,落語の場合は,聞いているうちにだんだんと分かってくる。

落語を聞く側の3条件

 落語を聞く人の条件は3つあります。日本語が分かること,これが一番の大前提です。それから,細々したことにあまりこだわらず,深く考えないこと。3番目に想像力が人並みにあること。聞いたことをぱっと思い浮かべられるぐらいの知識です。会話だけで進めていくのが基本ですから,その人の言うたセリフによってお客さんに思い浮かべてもらうわけです。ですから,今非常にやりにくい時代になっています。落語というのは江戸時代や明治時代が舞台ですから,昔使っていたものが今分らない。例えばタバコです。昔は煙管(きせる)ですね,刻みタバコを詰めて吸うのですが,今でもこれはタバコやなということぐらいは分かるんですが…。火鉢や蚊帳もそうです。

 ですから漫才とは違って聞き手の常識に頼って進めていかんならん場合があるわけです。実例として小噺をいくつかご披露さしていただきます。「鳩がなんや落としていったなぁ」「ふーん」。これでしまいですね。この後は何もない。同じようなものはたくさんあります。「隣の家に囲いができたなぁ」「へェー」。これもなぜおかしいかと言いますと,囲いはというのは塀,それと返事のへェーが重なった,ただそれだけのことです。

落語で柔軟な発想を

 今のが一番単純な噺なんです。あきられるというので,噺家の方もどんどんひねります。お客さんもそれを要求してくるともう少しレベルの高い噺が好まれるようになります。「考え落ち」というんですけども,少し難しい。例えばこんな噺です。2階の窓から道へ向かって釣り竿を持って糸を垂れている,真面目な顔してじっとこうやっているんです。道を歩いている人はびっくりしますわ。フッと見たらこんなとこに針がぶら下がっているんです。「ちょっと見てみい,2階から釣り糸を垂らして,あれで釣りしてる気になってんねんやなぁ。頭がおかしいんやで」「もし,大将,掛かりますか?」「へぇ,あんたで3人目や」

 われわれは学校へ落語をしに行きますが,その学校がええ学校か,そうでないかいっぺんに分かります。やっぱりええ学校というのは,ものすごう反応がいい。ちゃんとツボ,ツボで子どもが笑うんです。逆にここはなという学校はそれなりの反応しか返ってきません。

 落語を聞いておりますと,柔軟な発想ができてくるんやないかと思います。昔から何百年にわたって,伝統として伝わっているもんの中には,いろんなパターンのいろんな噺が残っています。妙なことを考えつくのが落語の中に出てきます。「道具屋」という噺があります。鯉の滝上りの図柄の掛け軸を見ながら,その男は間違うて,「ボラがそうめん食うてるんとちゃいますか」と言うわけです。「いや,これは鯉の滝上りや」「鯉が滝上りしまんの?」「鯉というのは勢いのええ魚やさかいな,川をさかのぼっていって,滝があったら下から上へさかのぼりにのぼっていくねん」「ああ,さよか。鯉の捕まえ方思いついた」「どないすんねん」「橋の上からバケツいっぱいの水をザーッとやって,ほな,鯉が滝と間違うて下からさかのぼってバケツの中に入りまっしゃろ」。こういう不思議なことを考える人物がたくさん出てまいります。

伝統芸能をよく知って

 昔からたくさんの伝統芸能はありますが,業界のトップの方があんまりご存じないというのがちょっと悲しい状況やと思います。これは落語だけやなしに歌舞伎であり,文楽であり,能であり,狂言であり,何でもそうなんですが,日本に興味を持った外人さんは,こんなことに興味を持ちはるんです。海外赴任した人に「私,歌舞伎のこんな話が好きです」と向こうの人が話しかけてくる。ところが,肝心の日本人は「そんなん聞いたこともない。見たこともない。歌舞伎は知りませんねん」というのがよくある話やと聞きます。これが一番残念なことであると思います。海外へ行って日本の文化を広める機会があるのに,何も知らないというのは,おつき合いも狭まってくるでしょう。伝統芸能一つぐらい,しゃべれるというふうにしていただいたらと思います。そして頭を軟らかくして,いろんな芸を楽しんでいただけたらありがたいと思います。

 落語に関しては,聞く落語と読む落語という,別のジャンルと言ってええんやないかというぐらい同じ材料でも趣が違います。いろいろな接し方があると思いますんで,これからも伝統芸の上方芸能,そして上方落語,桂米二をどうぞよろしくお願いします。