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2004年7月16日(金)第4,031回 例会

エグゼクティブのメンタルヘルス

和 田  秀 樹 氏

(有)ヒデキ・ワダ・インスティテュート
精神科医
和 田  秀 樹

1960年大阪市生まれ。 ’85年東京大学医学部卒業。 同医学部付属病院研修医, 水戸病院等を経て, ’91年~ ’94年東京大学医学部付属病院精神神経科助手。アメリカ, カール・メニンガー精神医学校国際フェロー。(社)浴風会病院精神神経科医師・東北大学非常勤講師等様々な経験を積み, 現在静岡県長寿学術フォーラム組織委員。 『痛快!心理学』『75歳現役社会論』等著書多数。

 今,企業社会が変わってきて,トップの人たちが自分のリーダーシップでやりなさいということで,うまくいけばお金がもらえ,失敗なら株主代表訴訟で何億も取られるとかいう,とても厳しい時代が来ています。そういうアメリカ流を導入していいのか考えたときに,大統領でもカウンセラーを持っているアメリカ社会に比べ,日本ではカウンセリングのシステムとかが全然なく,全部自分の判断でやるしかない。まだシステムが用意されていない社会で,ご自分でできることのお話をしたいと思います。

不景気とうつ病

 「デプレッション(depression)」という言葉は,精神医学の世界では「うつ病」,経済の世界では「不景気」のことです。日本の今の景気,やっと薄日が差しかかってきたかもしれないが,なんかうつ病的なんじゃないかというふうになってきた。現実的にも,日本の自殺者はこの5年間,年3万人を超えて過去の数字より大体1万人ぐらい増えている。失業率が1%上がるたびに3,500人自殺が増えるそうです。資金繰りに困るとかで自殺される経営者も多いわけで,とても深刻な問題だと思うんです。

 うつ病になったときには悲観的にものを考えてしまって,ひどい場合は妄想まで出てしまう。うつ病になると有名な3つの妄想が出ると言われています。「心気妄想」は,がんノイローゼの患者さんなんかがそうですが,朝起きたときに胃が痛かったら「胃ガンに違いない」とか思ってしまう。「罪業妄想」というのは,自分が悪いことをしていたとか思う。「貧困妄想」というのは,お金がちゃんとあるのに貧しいとか思ってしまうようなことです。

 これがうつ病の世界だけのものかというと,そうじゃない。「自分は」を「日本は」に置き換えていただけば,「日本は重病だ,バブルのときに悪いことをしてきた,日本はどんどん貧しくなるぞ」。マスコミが言い続けてきたことで,日本全体がうつ病的な妄想に支配されているといっていい。それも不景気の原因じゃないかと思うんです。

 うつ病は極めて悪循環を起こしやすい病気です。最後は絶望して自殺というようなことが起こるわけで,この悪循環を断ち切ることがうつ病にとって大事だというふうにわれわれは考えています。

メンタルヘルス・テクニック

 うつ病の治療法として「認知療法」があります。あまりに悲観的な患者さんに,客観的な証拠だとか数字を挙げ,あなたの悲観には根拠がないと示したら,うつ病がケロッと治ったんです。悲観を治したらうつ病がよくなるという考え方で始めた治療です。不安に打ち勝つには「森田療法」というのがあります。人前で上がってしまうとか,赤くなってしまうといったパターンのときの治療法です。行動を変えていくと感情の方も変化する,というのが不安への対処法で,悩みがあっても意識を外に向けて目の前にある仕事をやりましょうという考え方です。

 そして「コフートの自己心理学」はアメリカ流のやり方ですが,患者さんが依存してきて「先生」と頼ってきたら,それを認めてあげる,そういう治療をしているんですね。患者さんの自己愛的な部分,褒めてほしい部分を満たしてあげる。相互依存でいいんだということなんです。

 神経の伝達物質が足りなくてうつになることもあります。この伝達物質を神経の中だけで増やす薬に頼るのも悪いことじゃない。うつ病になって伝達物質が足りない状態が長く続くと,神経の中がおかしくなってしまうんです。うつ病を放っておくと,変化を起こし慢性化しやすいみたいなことがあって,やっぱり早期治療が大事です。

 現実的な悩みに対する解決法としては,わたしは受験のこともやっているんですが,お子さんとかお孫さんの世代には安心して勉強させることが大事だと思います。ちょっと優等生の子どもが事件を起こすと,勉強している子が危ないとか言うけど,統計的に見たら全くのうそっぱちです。介護問題というのも,経営者世代とかに気になることですが,いい施設介護を考えた方がいい。全部在宅でやらなければという罪悪感というものは,むしろメンタルヘルスに悪いと思うんです。

 うつ病というのは,悪循環を絶つためにも,脳の変化を絶つためにも早期治療をしたほうがいいので,身内でうつ病がいたというようなときに,きょうをいい機会に,早めに治療をしていただきたいと思います。

よく遊び,よく学べ

 70歳の調査を見ると,コレステロールの低い人が一番早死にしている。正常よりちょっと高めぐらいが一番長生きしている。心臓の医者はコレステロールが高いと駄目だと言う。確かにコレステロールが高いほど,心筋梗塞とか狭心症が増えるが,コレステロールが高いほどがんになりにくいんです。脳卒中も,ちょっと高めぐらいがなりにくいわけです。健康常識のうそに惑わされない方がいいと思います。年を取ったらいろいろなことが免罪されるみたいです。老人ホームのデータでは,喫煙者と非喫煙者に関していえば,生存曲線に差がなかったんです。65歳以上の人はこれからタバコを吸っていても大丈夫です。

 年を取っても頭がしっかりしている人の方が長生きできる。要するに「よく遊び,よく学び」をしていただければ,健康で長生きしていただける。ですから,心の健康を大事にされることが一番いいと思います。