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2004年4月16日(金)第4,020回 例会

自然で都市をつくる

佐 々 木 葉 ニ氏

ランドスケープアーキテクト
京都造形芸術大学教授
佐 々 木 葉 ニ

1947年奈良県生まれ。神戸大学卒業,大阪府立大学大学院修士課程修了。
建設会社を経て87~89年カリフォルニア大学(バークレー)大学院及びハーバード大学デザイン学部大学院の客員研究員をつとめる。現在,京都造形芸術大学教授,鳳コンサルタント環境デザイン研究所所長。神戸大学,広島工業大学他非常勤講師。

 ランドスケープデザインのお話をしたい。ランドスケープアーキテクトという職業名称が初めて使われたのは,19世紀の半ば,アメリカのセントラルパークの国際コンペ以降です。従来の庭をつくる考え方では公共空間をデザインできない。そこで米国の大学教育で,建築と造園の合体した分野が必要だとして「ランドスケープアーキテクチャー学科」が,1900年にハーバード大学に誕生しました。

 私自身が,自然で都市をつくることを真剣に考えたのは1995年の阪神大震災がきっかけです。震災は我々に何を教えたのか。

緑は都市の重要なインフラ

 60人が犠牲になった神戸市長田区の大国公園では,クスノキが火力を止めました。庭の緑も防火に役立った。無剪定工法のイチョウ並木が建物の倒壊を防いでくれたおかげで,救援や復興が早まった。このように,道路だけでなく,樹木も都市のインフラであり,単なるアメニティーと思っていた小さな公園が,実は命を支える非常に大事な都市の構造だということを教えられました。震災後,3千戸以上の公的住宅が建築されることになり,私がランドスケープのデザインを担当しました。灘区にある現在の「HAT神戸」です。

震災で焼け出されたり,肉親や財産を失ったりした方の受け皿となる高齢者の町で,長屋に住んでおられた方が高層住宅に住まざるを得ない。仮設住宅での孤独死が問題になっていたので,できるだけ外へ出やすい,歩きやすい町が必要と考えました。

 そのためには,何が必要か。どこにでも座れるところがあり,トイレが近いことです。そこで,たくさんの店舗が並ぶメーン道路には,6m間隔でベンチを置くことにしました。買い物に来た人がそのまま帰らず,座ってくつろげるようにと,公共空間とプライベートな雰囲気が半々の庭のような道をつくりました。住宅内部の中庭には,高齢者に優しいウッドデッキの縁側もつくりました。

 すると,店舗の方が自分の庭のように掃除をしたり,子どもたちが,高齢者にあいさつしながら登校したりと和やかなシーンが見られるようになりました。仮設住宅では見られなかった子どもの遊ぶ姿を楽しめる空間になったと,大変喜んでいただきました。雑木をうまく使って,緑の中を通る構造にすると,本当にいい風景ができます。

ガラスの上に森が浮かぶ

 次に,手がけたプロジェクトは「さいたま新都心」です。JR跡地に新都心を建設する国家プロジェクトで,自然で都市をつくる本格的なテーマが始まりました。国際的なコンペで,まず,中央の広場ができて,その後,周りに国土交通省や総務省などの建物がつくられます。

近くの神社から,切り取った緑の森がカーペットのように飛んでくる。そんなプランを思いつきました。「地上7m,1haの広場に220本のケヤキが植えられていて,夏には森が浮かんでいる風景になる。秋にはケヤキが落葉し,アートフェスティバルが始まる」。こうした,超高層ビルの足もとに森をつくるイメージが,コンペに採用され,完成しました。

広場は,全体が光と影を持つ空間とし,遠くから見ると,人工地盤の上に森が乗っているイメージ。9千個のガラスブロックを埋めた床にライトを当て,イベント空間にしました。人工地盤のため,高さ12mのケヤキも根は1mしか発達できない構造のため,土の層を相当工夫しました。

屋上庭園に揺れる稲穂

 最後に,六本木ヒルズのランドスケープを紹介したい。53階建ての大きな建物とテレビ朝日,旧毛利邸跡に江戸期の庭を近代的に再生した毛利庭園,劇場,ホテル,住宅を配した複合開発プロジェクトです。中央の広場には,緑の丘をつくり,いろいろな場所で人々が座れる空間を設けています。

テレビ朝日と劇場の間はアリーナとし,ふだんはカフェテラスに利用,イベントもいろいろ行われます。ケヤキ坂通りは最も有名な場所になりました。

 屋上庭園には,「あきたこまち」と,もち米の田をつくり5月5日,子どもたちに田植えをしてもらいました。秋には稲穂が実り,収穫し,もちつき大会をしました。日本庭園は,野点ができる新しい芝庭です。キッチンガーデンは,さまざまなハーブが植えられ,それを摘んで食事ができるパラダイス空間となっています。