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2003年10月3日(金)第3,993回 例会

経営理念と奉仕の精神

南谷 昌二郎 君

会 員 南谷 昌二郎

1941年生まれ。64年東京大学経済学部卒業。64年日本国有鉄道総裁室秘書課勤務。87年西日本旅客鉄道(株)取締役人事部長、常務取締役。92年専務取締役。98年代表取締役社長。03年代表取締役会長就任。現在に至る。 当クラブ入会 : 02年5月。 PH準フェロー, 準米山功労者。(鉄道運輸業)

 宣伝めいて恐縮ですが、お手元に資料をお配りしたJR西日本の「経営理念」をご紹介したいと思います。昭和62年4月に国鉄改革でJRが発足した最初の経営会議で、当時アサヒビールの現職のまま就任された村井勉会長の提案で作ることになったものです。

公共企業体から株式会社へ

 なぜ経営理念が必要だったかお話しします。昭和24年6月、国鉄が国の直営から公共企業体として発足するに際しての日本国有鉄道法に、設立目的は「公共の福祉増進」であると書いてあります。これが分割民営化で商法上の会社となったのですから、国鉄とは考え方が変わらなければいけないわけです。

 二つ目は「分割」という現実的で厄介な問題です。全国一本で鉄道を経営していたのを六つの旅客鉄道会社と全国一本の貨物会社に、つまり一匹の蛇をチョンチョンと切ったようなものです。JR東日本の本社は国鉄本社が移行し、新たに本社を作る会社でも北海道、四国、九州は国鉄時代からそれぞれ一つのまとまりでした。西日本は北陸、中国、近畿、九州エリアの新幹線もあります。大阪の本社では旧大阪鉄道管理局メンバーが全社を取り仕切るという意気に燃えたのですが、他は大阪の言うことが聞けるかというふうに、胴体はあるが頭はない、という状態でした。強力な司令部を作るために指導理念が必要ということです。現場では、決められたことをやれば列車は動きました。しかし決められたことが有効な間はいいが、世の中は動くのです。変更していくには司令塔が必要になります。

 国鉄時代から「安全は輸送業務の最大の使命である」で始まる5項目の「安全綱領」があります。「安全の確保と正確なダイヤ」は国鉄マンの誇りであり、その伝統はJRにも引き継がれていく日本の鉄道魂だと思います。しかし国鉄は破産し、それまで「官」の時代の流れで風下に見ていた私鉄を見習うということで、考え方の整理が大事だったのです。

「わが社はなぜあるのか?」

 村井会長は関西経済同友会代表幹事の時の視察で、例えばJohnson&Johnsonが世界どこでも同じ理念が徹底されていることに感銘を受け、会社を早く一本にするため経営理念を作ってはどうかと提唱されたわけです。その時「わが社はなぜあるのか?」を考えて作ってくれと言われたことを記憶しています。

 私たちは全社挙げて作ることにしました。社員全員に「会社についてどう思うか」「上司について」「黒字になると思うか」などアンケートをとりました。回収率は98%を超えるという関心の高さ。そして全職場5万人の1割強を350のグループに分け職場討議。経営幹部、労組幹部、部外有識者へのインタビュー。それを集大成し経営会議を経て3か月後の7月に出来上がったというのが経緯です。

 前文の「人間性尊重の立場」「労使相互信頼」「鉄道の活性化に努める」「地域に愛され共に繁栄」は国鉄時代の反省と改革の理念。「総合サービス企業」「リーディングカンパニー」は新たな使命。「社会・経済・文化の発展、向上に貢献」はこれからの企業のあり方を書いています。あと「ハート&アクション」の「1.安全・正確な輸送の提供」は鉄道として当然です。2~5(お客様本位のサービスなど)はどこでもなさっていることですが国鉄時代にはできなかったことを書いておこうということです。最後の「6.同業他社を凌ぐ強い体質づくり」の「同業他社」は私鉄か飛行機かと議論がありましたが、ともかくこれでやろうということで作ったのがこの経営理念です。

 理念の実践目標を書かせることなどで、経営理念の「体質化」を図りました。阪神淡路大震災で全社一丸となったことが、正に経営理念を体質化した姿だったと思います。そろそろ17年になりますが、事故などいろいろなことから立て直していくことにおいて、指導理念があったことはよかったと思います。

 人の命を預かる職業は、仕事を通じて社会に奉仕すると強く意識されていると思いますが、実は不断の修練と精神の陶冶があって初めて社会に認知され尊敬も受けるわけです。逆に怠慢とか不注意はその及ぼす危険性は極めて高く、反動は非常に大きいのです。  株式会社は営利優先だからと民営化に疑念を呈する意見がありますが、事業の永続性のためにお客様、従業員、地域社会、株主のことを考え経営されるのであって、官民変わらないと思うのです。人間は堕落しがちでありますが、「官」は法律で担保し、公僕精神で維持する。「民」は市場の評価と、経営理念が担保するのではないかと思います。

経営者への指導理念

 経営理念制定のとき「わが国のリーディングカンパニーとして」の表現が言い過ぎではないかと議論になり、ちょっと背伸びしようかと入れました。経営理念は社員より経営者への指導理念かなと最近思います。これを唱和する時、ちゃんとやってるかと言われているようで、そういう効果がある気もします。

 『奉仕こそわがつとめ』という冊子に「ロータリー綱領より」とあって「実業および専門職業の道徳的水準を高めること、あらゆる有用な職業は尊重されるべきであるという認識を深めること、そしてロータリアン各自が職業を通じて社会に奉仕するためにその職業を品位あらしめること」とあります。経営理念という考え方はロータリアンが始めたのかなと思うくらいです。Johnson&Johnsonの理念は正に、従業員、地域社会、お客様、株主の4項目に間違いなく行動しているかということで、ロータリー精神と通じると思っています。会社の永続、繁栄にはロータリー精神が重要ではないかと思うのです。