会 員

山 本  条 太 君(外交官)

1959年生まれ。’82年に外務省に入り,国連代表部,在ロシア,パキスタン大使館などで勤務。2011年以降は在ヒューストン総領事,防衛省防衛政策局次長,内閣府PKO局長などを経,駐フィンランド大使,’19年4月大阪に着任。同年7月当クラブ入会。

 フィンランドに4月までおりましたので,フィンランドのお話をいたします。
小国の生き方
 大国の隣にある小さな国が独立を保ち,大国の傀儡や衛星国になる,それを「フィンランド化」と言います。米ソ冷戦時代につくられた言葉です。今のフィンランドは,ロシアの傀儡でも衛星国でもありません。しかしある日突然,おしゃれで,幸福度世界一の西側の国になったわけでもありません。100年間チャンスを待ち,国の独立の中身を充実させ,社会の一体性を守り抜き,それを徹底させてきたのがフィンランドでした。
 フィンランドはスウェーデンとロシアに挟まれ,両国が戦争で勝ったり負けたりするたびにやり取りをされました。1917年の独立に先立つ約100年間はロシアに,それに先立つ約500年間はスウェーデンに支配をされました。フィンランドはスウェーデン人のつけた呼び名で,辺境の土地という意味です。フィンランド人はフィンランド語で,自分の国のことを「スオミ」と呼びます。水辺に由来する美しい言葉です。
 ロシア革命で帝政ロシアが倒れた’17年にフィンランドは独立。直後に内戦が勃発し社会が分断し外国が介入しました。外国に操作をされれば社会が崩壊する,それが独立フィンランドの原体験でした。第二次大戦中は,独ソ戦争の最前線になりソ連との無意味な戦争を2回行いました。軍事的には勝ちましたが,政治的には負けて,ソ連に国土の10分の1を割譲しました。40万人の国民が土地を追われました。
 戦後間もなくソ連との相互援助条約を結び中立政策を保ちました。’75年,東西両陣営35ヵ国の首脳を招集して,全欧州安全保障協力会議(CSCE)を開催,その後のヨーロッパ信頼醸成の基本となったヘルシンキ宣言の採択に成功しました。
 1,300㎞の陸上国境で接するロシアとの間合いの取り方が,今なお外交安全保障の根幹です。ソ連崩壊に伴いソ連との相互援助条約を破棄したのが’92年。’95年にEUに加盟して,2002年にはユーロを導入しました。北欧で唯一のユーロ圏です。
 バルト三国,東ヨーロッパ諸国は,ロシアから自国を防衛するために続々NATO(北大西洋条約機構)に加入しましたが,フィンランドはNATOには入っていません。国境1,300㎞をNATOが軍事的に守れるわけがない。NATOに入ればロシアをいたずらに挑発するだけだという割り切りでもあります。
対ロシア政策
 ロシアとの間合いの取り方は対話・抑止・依存脱却の3つです。第1の柱の「対話」です。EUが対ロシア制裁を続ける中,フィンランドは制裁を守りながら,年2回の首脳会談を行い,全面的に政治対話を復活させました。昨年7月には米ロ首脳会談をヘルシンキでホストしました。2つ目は「抑止」です。まず徴兵制,有事には28万人を動員できる体制をつくっています。フィンランドは人口550万人,日本との人口比は1対23ですから,有事兵力28万人,これは日本で言いますと644万人,大変な規模になります。米軍との相互運用性も強化しています。空軍は多数のF/A-18ホーネット戦闘機を運用,去年は米空軍主導の西側陣営の一大共同空軍演習に参加しました。
 今,欧米が最も警戒しているのがロシアによる情報戦です。サイバーの技術や心理戦を応用して,各国のメディアや選挙活動に密かに介入をし,操作をすることです。端的に言うと偽情報,あるいは誘導工作です。フィンランドが取った措置はEU・NATO連携のもとにハイブリッド型脅威対抗センターをヘルシンキに設立をしたこと。もう1つは,インテリジェンス法の成立でした。国家安全保障上の必要があれば,通信の傍受,通信への介入,これを公に認める法律です。
 3つ目の柱は,ロシアへのエネルギー面で「依存脱却」です。具体的にはロシアからの輸入に頼る石油,天然ガスへの依存を減らすことです。そのために再生利用可能エネルギーの比率を’30年までに50%に上げるとしています。この電源については原子力を拡充しています。反原発という世論調査の数字が出ることはありますけれども,ロシアへのエネルギー依存を減らすという目的には政治的なコンセンサスがありますから,原発の是非が政策上の争点になることはありません。
日本とフィンランド
 またフィンランドと日本との防衛交流は,最近急速に進展しています。去年の春には小野寺防衛大臣が訪問,夏には海上自衛隊の護衛艦がフィンランド海軍との訓練も行いました。今年の2月にフィンランド国防大臣が来日をして,岩屋防衛大臣との間で防衛交流・防衛協力覚書に署名をいたしました。フィンランドとしては10番目の防衛協力覚書,アジアの国とは初の覚書になります。
 ところで,グーグルはフィンランドにデータセンターを置いています。世界で最も情報収集力があってビッグデータの分析力があるのは,巨大IT企業だと思います。そのデータセンターがあるということは,その国が政治的,社会的に安定をしていて,外部からの干渉や介入にも政治的,社会的,技術的に対抗でき,しかも膨大な電気を供給できると,そのようにグーグルが考えている証拠だと思います。フィンランドはそういう国です。
 ムーミンやサンタクロースとかのうわべに隠された戦略的な思考にはすごいものがあると思います。その国が安全保障,ビジネスで,日本との戦略的パートナーシップの具体化を進めようとしております。関空から毎週10便フィンエアーが飛んでいます。難しいヨーロッパ,ロシアとつき合う上で頼りがいのある道案内のパートナーかもしれない,そんな目でフィンランドを眺めていただけると私も大変うれしいなということを申し上げまして,結びといたします。
(スライドとともに)


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