日本航空(株) 運航技術部 部長
ボーイング777
機長

松 並  孝 次 

1966年大阪市阿倍野区生まれ。’84年府立天王寺高校卒業。’87年運輸省航空大学校卒業。同年日本航空(株)入社。’90年747セカンドオフィサー,’91年747副操縦士,2000年747機長,’10年777機長。総飛行時間約13000時間。’05年より日本航空出前講座「そらエコ教室」講師として活動を行う。現在は運航技術部に所属し,日々の機長業務のほか,A350導入準備,各機種Manual改定,新造機TestなどのTest Flight管理を行っている。

 歴史ある大阪RCにお招きいただき,ありがとうございます。「パイロットが気づいた地球環境の変化を広く社会に,特に次の世代を担う子どもたちに伝えたい」。この思いから日本航空は2007年の6月より「そらいく」という名前で環境講座を始めました。
航空機による大気観測プロジェクト
 こちらは’05年7月の乗務中に撮影した北極海の写真です。氷が一面びっしり張っています。’07年8月には,氷が溶けています。
 次はグリーンランド上空からの写真です。’05年8月には山の上に氷が一面に張っていますが,3年後の’08年には茶色い地肌が見えています。世界の氷床の9%を保有しているグリーンランドの氷がすべて溶けてしまうと,2100年には海面が7メートル上昇すると言われます。
 続いては,シベリアで見た積乱雲です。私が飛び始めた1990年頃,このような入道雲をシベリア上空で観測することはありませんでした。ところが近年,ハバロフスク上空からミルニー地方にかける高緯度地方でも観測されるようになり,パイロットはレーダーや目視で神経を使いながら,入道雲を避けて飛行しています。
 航空機による大気観測-CONTRAILプロジェクトを紹介します。国立環境研究所などの依頼を受け,上空の大気を持ち帰り分析するプロジェクトです。今までは,人間の住む地域に気球などを打ち上げ,上空の大気の様子を測っていたのですが,航空機を利用することで,人の住まない地域や洋上での観測ができるようになりました。
 私どもが所有する777,24機,国際線のうち10機の貨物室に,CO2濃度を自動で連続して観測する装置や,実際に上空の大気をボンベに詰めて持って帰る装置が備えつけられています。テストフライトで,飛行システムに支障がないことは確認済みです。装置のない飛行機では,コックピットに担当者が乗り込み,手動で大気を持ち帰ります。東京からパリ,東京からシドニー,この2つの路線で計測し,世界では80ヵ所以上の空港で観測しています。2005年から’15年の成田空港上空のCO2濃度は,植物の活動が活発になる夏場はCO2の濃度が下がるというジグザグの季節変動をしながら,右肩上がりに増えています。北半球と南半球でこのジグザグの波形に違いがあり,バンクーバーとシドニーの上空では,この季節変動の幅が違います。北半球では陸地が多く,光合成による活動が多いために季節変動が多くなるのに対し,南半球は海が多くて地面が少ないために光合成の活動が少なくなるからです。
パイロットによる森林火災観測
 森林火災観測ではJAXA(宇宙航空研究開発機構)の要請を受けて,人工衛星で森林火災を発見する研究が進んでいます。ロシアでは毎年日本と同じ面積ほどの土地が森林火災によって焼失しています。今,世界では環境保全のためにCO2の排出を抑制する動きが世界各国で行われていますが,実は人間が出すCO2の量を10割としますと,多いときでは,この森林火災によって出されるCO2の量は6割にも達します。
 日本航空のパイロットは,上空でこのような山火事を目視で発見すると,機上にあるコンピュータに位置や高度,火災の規模,様子をコンピュータに入力し,東京のオペレーションセンターに送信します。24時間365日,その情報はオペレーションコントロールセンターからJAXAへ報告されて,その火災発見のアルゴリズム向上に役立てていただいております。森林火災によるCO2の発生を何とかして減らすことこそが,地球環境の改善につながるということで,世界で初めて,日本航空だけがこの取り組みを行っています。
運行現場からの環境活動
 パイロットによる現場での環境活動について紹介します。エコフライトを実践するため,飛行距離が短く,さらに追い風の強いところを飛行して,目的地に着くことでCO2の排出を抑制しています。アメリカなどから帰ってくる場合は向かい風になるので,向かい風の弱いところで飛行しています。燃料消費飛行時間を少しでも短くすることができれば,余分な燃料を持って行かずに済みます。飛行機にもお手洗いはありますが,搭乗前にお手洗いに行っていただくだけで環境活動になります。ご協力よろしくお願いします。
 パイロットが着陸のときに使用しますFlapと言われる揚力装置も少し浅い角度で着陸すると,スピードは速くなりますが,燃料消費は少なくCO2排出が削減できます。また,Reverse(逆噴射)でも,着陸後にブレーキを主に使って逆噴射の推力を大きくしないことで,CO2の排出削減ができます。
 日本航空は,世界で4番目にバイオ燃料でのテストフライトを実施しました。バイオ燃料の原料として,荒れた土地でしか育たない「カメリナ」という植物の種や,毒性が強くて動物も食べない「ジャトロファ」という木の実から採ったもの,あとは藻から採った油分,それでつくったジェット燃料を通常の燃料と混ぜて飛行する性能テストを’09年に行いました。’20年の東京オリンピックまでにJALとしてこの新しい燃料で飛行機を飛ばすことを目指し,実際にロサンゼルスの空港で搭載される燃料の一部に使われています。
 日本航空では,皆さんと一緒に地球を守る活動をこれからも続けます。ご清聴ありがとうございました。
(スライドとともに)





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