演出家

杉 田  成 道 

1943年愛知県生まれ。’67年フジテレビジョン入社後,主に演出家として活躍。’81年から国民的ドラマ「北の国から」シリーズを手がける。’98年「町」で第52回芸術祭大賞,’90年「失われた時の流れを」でギャラクシー大賞受賞ほか,テレビドラマ,舞台・映画演出多数。映画監督として2010年末に「最後の忠臣蔵」(主演・役所広司,佐藤浩市)を公開。現在,日本映画放送(株)代表取締役社長。

 私はドラマ「北の国から」を22年間演出してまいりました。また,映画の演出もやっていますが,その他にも時代劇専門チャンネルを手がけています。今日は「時代劇は楽しい!」をテーマに,時代劇専門チャンネルからお話しさせていただきます。
現代の作家に影響を与え続ける時代劇
 子どもたちに大変人気のある海賊のアニメ「ワンピース」ですが,作者の尾田栄一郎さんは「七人の侍」から着想を得たと公言しております。宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」は企画段階の下絵で鎧を着た絵があり,ご本人も時代劇からかなりの着想を得ていると言っています。時代劇は想像力を刺激する,現代の作家に根を下ろしている,そういうことがこれで見て取れると思います。
 時代劇と言えば,何といっても黒澤明監督でしょう。ほとんどの人が黒澤監督の作品を1作は見ていると思います。「スター・ウォーズ」は,ほとんど黒澤さんの影響下でやっているとルーカスも公言しています。
 その他にも,溝口健二監督の「近松物語」,小林正樹監督の「切腹」,そして時代劇といえば「座頭市」の勝新さんですね。
 テレビでは「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「大岡越前」です。また「鬼平犯科帳」は,さいとうたかをさんの漫画やアニメも作られています。他にも,時代劇のハードボイルドの傑作「必殺仕掛人」や,藤田まことさんや北大路欣也さんが演じてきた「剣客商売」がありますね。
 宣伝になりますが,紹介した時代劇は全て時代劇専門チャンネルでご覧いただけます。時代劇専門チャンネルには,日本総世帯数のほぼ15%の806万世帯が契約されています。
現代社会こそ時代劇を見るべき
 なぜ,時代劇はおもしろいのかを考えてみましょう。まず,痛快である,そして勧善懲悪である。そして何より人情がある。
 その背景には日本人論があります。「南総里見八犬伝」に出てくる仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌ですね。仁は慈愛,義は大義・理想,礼は礼節,智は知恵,忠は忠義,信は信義,孝は孝行,そして悌は兄弟愛。これらが日本人の奥底に流れていると考えてもいいと思います。
 その次は,いわゆる儒教です。"和の思想",自我を殺して和を尊ぶ。公を大切にして人のために生きなさい,というのが日本人の考え方。一方,西洋は"個の思想"です。哲学の思想で,個への追求,自己に問いかけなさいということですね。
 時代劇では,己を殺して義のために生きる—すなわち人のために生きなさい。清貧を尊び勤勉を旨とする—貧乏は恥ずかしいことじゃない。矜持を持つ—生きることに誇りを持ちなさい。そして,情けに生きろ。
 一方,現代劇は己を生かすためのドラマで,自分の人生は自分で切り開きなさいという視点から組み立てられています。今の日本人は,「現代に生きるために,己を生かすことを第一に才能を磨きなさい」と教育されています。いわゆる西洋化,グローバリズムです。
 己を殺すことも美意識,和を尊ぶ精神という儒教思想は西洋的な考え方と一見矛盾していますが,日本人は2つの考え方が混然一体となって独特の精神構造をつくってきたと考えられます。
 しかるに,今,時代劇の灯が消えようとしています。つまり,日本人論が消える危機です。2011年の「水戸黄門」を最後に,地上波民放テレビから連続物時代劇が消えました。なぜかというと,スポンサーがつかないから。民放は若年層をターゲットにしているため,今NHKを除けば各局とも年に2~3本しか時代劇を制作していません。
 そこで我々は10年前からオリジナル時代劇をつくりはじめました。鬼平犯科帳の外伝として盗賊を主軸にした「鬼平外伝シリーズ」や,藤沢周平シリーズとして「三屋清左衛門残日録」「小さな橋で」「果し合い」など,10年で20作以上つくりました。5・6月にも仲代達矢さん主演で撮る予定です。
今, 時代劇が危機に瀕している
 さて,これからが主題です。京都市にある撮影所にはスタジオ,オープンセットがありますが,今ほとんどがテーマパークになったり借地のため敷地が狭くなってきています。我々は,このような撮影所でとっかえひっかえ飾りを変えて,何とか時代劇をつくっているのが現状です。
 また,スタッフが高齢化し,40代世代が欠落しています。連続物時代劇がなくなってしまったため,どんどんスタッフがいなくなって完全な空洞化になっています。そんなことで,時代劇が危機に瀕しています。時代劇は職人の技ですから,この人たちがいなくなったら,時代劇をつくることができません。
 中国に目を移してみると,北京には3つのオープンセットがあり,その中には紫禁城や時代劇のセットが用意されています。韓国も時代劇のオープンセットが組まれています。韓流ドラマも時代劇がほとんどですね。
 こうなったら琵琶湖周辺にオープンセットをつくるしかないと思っています。彦根城あたりにドカンと巨大なオープンセットをつくって城と琵琶湖を借景にすれば,広大な映画が撮れるはずです。これは私の夢です。ところが,旗を振る人がいない。この中でどなたか旗を振ってくれるとありがたいのですが,なかなか民民では難しいということがありますね。しかしこれをほったらかして,クールジャパンなどと言えないと思いますけれども……。
 結論から言います。「京都太秦を救え!!!」これを合言葉にして,本日のお話を終わりたいと思います。全く時代劇の話と関係がなくなりました。お許しをいただいて。
(スライドとともに)





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