弁護士
いくの学園理事長

雪 田  樹 理 氏

1990年大阪弁護士会に登録。’96年~98年イギリス留学。2002年1月女性共同法律事務所を開設。主にドメステックバイオレンスや性暴力・セクシュアルハラスメントなど,女性に対する暴力に関する事件を扱っている。’17年「NPO法人 いくの学園」理事長に就任。他に,NPO法人性暴力救援センター・大阪SACHICO理事。

 NPO法人いくの学園の活動には,四つのミッションがあります。①DV・性暴力・虐待の相談支援とシェルターの運営,②回復支援の場の提供と,被害者が発言しやすい場やネットワーク,仕組みづくり,③地域に開かれて気軽に利用でき,社会参加につながる機能を持った居場所づくり,④LGBTなどセクシャルマイノリティーがDV・虐待・性暴力について安心して相談できる場の提供,です。
人は人の中で守られる
 具体的には,まず電話相談を受け付け,毎月,被害者の法律相談を弁護士が行っています。被害者のカウンセリングも実施しています。
 そしてシェルター事業です。暴力や虐待の被害から逃れたいという人に緊急の一時保護をしています。ステップハウス事業は,地域で独り立ちして生活するのに困難を抱える人に中期的,長期的な自立支援をします。
 それから退所者支援事業・生活回復支援事業です。シェルターを利用した人は,地域の生活に戻ってからもさまざまな困難を抱えています。その悩みに応え,日常生活を元通りに送れるようになるための支援です。
 いくの学園のモットーは「人は人の中で守られる」です。暴力や虐待などは人によって傷つけられることですが,傷を癒やし自分を取り戻していくのは,人間の温かさに触れ,人に対する信頼を取り戻して社会生活を送れるようになっていくことです。
 学園の歴史は,終戦後の1946年,国の婦人保護要綱に基づく婦人保護施設の一つとして,当時の大阪府布施市に「婦人成美寮」ができました。’51年に大阪市生野区に移転し「生野学園」に名称を変更。’57年制定の売春防止法に婦人保護事業が盛り込まれ「大阪府立婦人保護施設生野学園」となりました。残念ながら’97年に府が婦人保護施設を統廃合し,廃止されました。
 そこで’98年,生野学園の職員を中心に,民間で「女のかけこみ寺・いくの学園」というシェルターを立ち上げました。2016年にNPO法人の法人格を取得,さらに認定NPO法人として皆さんに支えてもらうことになりました。昨年,民間団体になって20周年を迎えました。
 昨年までの20年間で,入所者が大人412人,子ども341人の計753人。電話相談は8,215件,法律相談やカウンセリングを含む相談件数は1万件を超えています。
居住福祉のモデル
 ’01年にDV防止法が制定される前から,独自の努力で,被害者受け入れ活動をしてきました。私は英国留学中に暴力を受けた女性への諸外国の取り組みを見て,1998年に加わることになりました。
 大阪弁護士会が人権団体に贈る人権賞の第1回(2002年)をいくの学園が受賞。’12年に府知事の表彰,’16年には日本居住福祉学会から居住福祉賞を受けました。居住福祉のモデルと評価されたのです。
 具体的な活動を紹介します。相談支援ではホットラインの電話相談があります。さまざまな要望があり,「逃げたい,耐えられない」という人には,どういった段取りで逃げることができるか,アドバイスします。「聞いてほしい」「情報が欲しい」と継続相談をされることもあります。一時避難の後も困難を抱えている人が多く,外出ができない,食事を作れない,人と話もできない人がいるのです。
 シェルターには,被害から逃れてきた親子の部屋,日常生活に困らない物が備えてあり,洗濯室やキッチンも付いています。広いテーブルのある部屋は,自由に集まれる広場になっています。みんなで食事や歓談もできます。
 生活回復支援事業は暴力の被害から逃げた後,地域で生活をする場合の支援事業です。夫婦の間にDV,暴力のある場合は支配–被支配という関係ができてしまいます。どう自分らしさを取り戻していくかというのが退所者支援で,何年もかかる作業です。
ごはん会
 いくの学園では,フードバンクを利用した生活支援もしています。女性を主にした事業所を運営し,同じような人がいる場所で,心と体に働き掛けるプログラムです。本来なりたい自分に向かって歩んでいけるようサポートしています。
 被害者は地域の中で独りぼっち,あるいは子どもと2人という生活をしていて,楽しんで食事をすることもできません。それで「ごはん会」をして,自分たちでごはんを作って語らいながら食事ができるということで,人気のプログラムです。
 利用者からは「ここに来ると温かい気持ちになれ,独りぼっちではないと思えます」「長い時間の中ですっかり自己主張ができない人間になってしまい他人が怖くなりました。今『私は私でいいんだよ』と思え,少し笑えるようになりました」という声が寄せられています。
 最後に,民間のシェルターは財政的に非常に困難をきたしています。行政からの委託費はごくわずかで,基本的には皆さんの会費と,寄付によって運営しています。赤字で閉鎖を余儀なくされるシェルターも出ています。
 そういう現状を受け,国も財政的に支援しようと動き始めました。今年5月に「DV等の被害者のための民間シェルター等に対する支援の在り方に関する検討会」が報告書をまとめ,内閣府が来年度,「DV被害者等セーフティーネット強化支援パイロット事業」を始めることになっています。
 いくの学園の活動を知って感じてもらえることがありましたら,今後とも寄付などの支援をいただけるとありがたいと思っております。
(スライドとともに)


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