UNICEF東京事務所
コミュニケーション専門官

佐々木  佑 

石川県出身。国際基督教大学教養学部国際関係学科卒業。米国コロンビア大学で教育開発学の修士号取得。2010年より国際NGO活動に従事。’13年別の国際NGOを経て,’14年8月より現職。

 去年の12月から今年2月まで約3ヵ月間,UNICEF(ユニセフ,国連児童基金)のアフガニスタン事務所に出向していました。ポリオのキャンペーンに参加して見てきた最前線を報告します。
99.9%の壁
 大阪RCのロータリアンが個人で25万ドルの寄付を,ポリオプラスにしてくれました。東京ではロータリアンと一緒に政策提言の仕事をすることもあると,アフガニスタン事務所の同僚に伝えたところ「くれぐれも日本のロータリアンの方々に,心からのお礼を申し上げてください」と,何人もの人に言われました。皆さまのご支援が,アフガニスタンで子どもたちの命を救っています。
 ポリオにかかると,主に下半身が麻痺(まひ)してしまいます。小児麻痺とも呼ばれます。中には呼吸器系の筋肉なども麻痺して呼吸ができなくなり,ひどいときは死に至る怖い病気です。
 ポリオを防ぐためにはワクチンの投与が有効です。日本では注射によるワクチン接種ですが,アフガニスタンやパキスタンでは経口ポリオワクチンといって,口に2滴垂らすことによって接種しています。
 過去30年間で野生株のポリオの発症件数は99.9%も減少しています。日本では1960年にポリオ患者が5,000人を超え大流行しましたが,’80年の1例を最後に野生株のポリオは発生しておりません。’88年の段階では,125ヵ国で35万人の子どもがかかっていました。1日約1,000人の計算です。それがロータリアンも参加している世界ポリオ根絶推進活動で99.9%が根絶されたわけです。
 現在,ポリオの野生株がある「常在国」は世界で3ヵ国です。アフリカのナイジェリア,私が出向したアフガニスタンと隣のパキスタンです。
 アフガニスタンでは’18年,世界最多の21件が発生,パキスタンで12件,ナイジェリアでは0件でした。
文化的なタブー
 世界最多のアフガニスタンですが,実は国土の96%はポリオフリーになっています。南部とパキスタン国境の東部の2ヵ所に発生が集中しています。私は,南部のカンダハールという県に1月に出張し,ポリオキャンペーンに参加しました。昨年,21件中9件と,最も多く発生した県です。
 カンダハール県では,日本でポリオの予防接種をするのとは訳が違います。保守的で,ユニセフのサービスも行き届かないような遠隔地が多い。私がいたアーガンダブという所も,女性は,父親や夫ら男性の許可がない限り外に出られません。出るときは,ブルカという布で全身を覆い,男性の視線を避けないといけません。ワクチンを持って待っていても,お母さんたちが子どもを連れてこられない。私たちが一軒一軒出向いて子どもに会いに行くわけです。「House-to-Houseキャンペーン」と呼んで,地道に毎日続けています。
 文化的なタブーの他にも,99.9%と100%の間に立ちはだかる大きな壁があります。
 1つ目は,ワクチンへの不信感です。「ワクチンはハラルではない」と信じている人がいます。ワクチンの中に豚のエキスが入っているのではないか,イスラム法では絶対接種してはいけないはずだと思っているのです。中には,ワクチンを接種したら死んでしまうと信じる家庭もあります。宗教指導者や尊敬されている年長者,医者,学校の先生などの協力も仰いでいます。そういった人の意見は,聞いてもらえることが多いのです。
 2番目の壁は,社会サービス全般が行き届いていない土地であることです。ユニセフも水と衛生のサービスと一緒にポリオワクチン接種のキャンペーンを行うなど工夫しています。
 3番目に,パキスタンとの国境にある東部では多くの人々が両国を行き来しています。ユニセフでは,パキスタン事務所と連携し,国境地帯に予防接種ができる場所を設置して,子どもたちを見つけては接種するといった活動も行っています。
根絶に向けた希望
 でも希望は見えています。今年1年で3つのお祝い事がありました。8月,ナイジェリアがポリオフリーになって3周年を迎えました。このままいけば来年,アフリカ大陸全土でポリオフリーが宣言されます。
 2つ目は,南北アメリカ大陸で,ポリオフリー25周年のお祝いがありました。
 3つ目には,10月24日の世界ポリオデーに,3型のポリオウイルスの根絶が正式に宣言されました。野生株のポリオウイルスには1型,2型,3型の種類があり,2型は既に根絶宣言がされています。今残っているのは1型のみになりました。ここまで追い詰めてきたわけです。
 ここでやめたら元の世界に戻ってしまうのは明白です。ポリオウイルスは非常に強いウイルスで,少しでも手綱を緩めたら,再び繁殖します。世界で毎年20万件発症するという推定もあります。ポリオ根絶を,私たちの世代で歴史に刻むことができるよう,皆さまの力をお借りしたいと思っています。
 30年ほど前,ロータリアンの皆さまはポリオ根絶を世界中の子どもたちに約束してくれました。当時,125ヵ国で35万人の子どもたちが歩けなくなったり,命を落としたりしていました。子どもたちに歩く喜びや友達と走って遊ぶ喜び,その笑顔を約束してくれたことになります。ぜひこれからも,その夢を一緒に追い掛けてもらえればと思います。
 そして今日も,私たちのアフガニスタンの同僚が一軒一軒家を訪ねていると思います。どうかその活動をご支援ください。よろしくお願いいたします。
(スライドとともに)


(C) Copyright 2002. The Rotary Club of OSAKA、 All rights Reserved.