大阪大学大学院 経済学研究科
准教授

安 田  洋 祐 

1980年東京生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。米国プリンストン大学へ留学,’07年にPh.D.を取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て,’14年4月から大阪大学大学院経済学研究科准教授。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。関西テレビ「報道ランナー」,テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などでコメンテーターを務める。経済学者。

 今日の流れは,3つの章立て―3つのグラフで読み解く世界経済,3つの視点で描く資本主義の未来,日本経済:令和の大改革―の形でご用意させていただきました。
グラフが示す資本主義の軌跡
 まず,3つのグラフをご紹介しながら,資本主義のたどってきた歴史,足もとの状況についてガイダンスしたいと思います。
 1つ目のグラフは「世界経済のGDP」の推移を表した非常に単純なグラフです。西暦1年から1800年ぐらいまではほぼ上昇しておらず,その後一気に上昇する,つまり世界経済全体が経済成長を経験するのは,18世紀近辺に産業革命が起こってからです。このグラフを真っ先にご紹介したのは,過去1000~2000年を振り返っても,経済成長というのはある意味異常事態で,せいぜいこの200~300年,人類の歴史から見ると非常に短期間の現象だと,まずお伝えしたかったからです。
 2つ目のグラフは,地域毎の世界GDPに占めるシェアをお示ししています。世界の半分が中国,インドという期間がずっと続きます。日本も含めた経済先進国G7のGDPは1000年前後では大体10%で,19世紀初頭まででもせいぜい20%ぐらい。ところが19世紀初頭にG7諸国が勃興してきます。さらに1990年代に入ってからは,逆の現象が加速します。リチャード・ボールドウィンさんは「大いなる収斂(しゅうれん)(THE GREAT CONVERGENCE)」と言っています。これはグローバリゼーションの影響で,グローバリゼーションは3種類の発展段階を経ている。最初はモノの移動コストの低下に伴うもの。次はアイデアとかノウハウの移動コストが劇的に下がったことによるもの。この次に下がるコストは人。今は,未来のグローバリゼーションに入りかかっている段階,そして引き続き,新しいグローバリゼーションも起こると言っています。
 3つ目のグラフは,エコノミストのミラノヴィッチさんが書いたもので,形が象に似ているのでエレファントカーブとも言われています。それぞれの所得階層で見て,東西冷戦がほぼ終結した1988年からリーマンショック直前の2008年までの20年間にどれぐらい実質的な所得が増えたかを表しています。下から10%の層,下から30%から70%ぐらいの中間層,上から1%の層は,それぞれ高い所得上昇を経験しています。ところが下から80%,上から10%~20%ぐらいに属している富裕層,主に日本,アメリカ,ヨーロッパなど先進国の中間層はほとんど所得上昇しておらず,ないがしろにされたと感じる人々が多い。政治の話とつなげると,トランプ大統領を支持する人々,ブレグジット党を支持するイギリスの人々も,多くはこの層と言われています。
資本主義の要素の度合いを選べる時代
 次に,資本主義の話を少しさせていただきます。イスラエルのハラリ教授は著書「サピエンス全史」で資本主義について分析をしています。英語で「キャピタリズム」,日本語でも「資本主義」と主義がついているのは,主義としての意味合いがあるからに違いないと。生産活動によって上がってくる利益を,再び生産に投資,ないしは再投資する,そういった利益のことをキャピタルと言い,キャピタリズムは,キャピタルを生産に再投資すべきだというのが資本主義のイズムじゃないか,と提唱しています。
 どうやってキャピタルを生み出していくか。資本主義に欠かせない本質的な3つの要素を,私見ですけれども仮に「私的所有・利潤動機・市場経済」とすると,歴史上100%の資本主義国家,地域は存在しません。重要なポイントは,これらのどの要素の度合いを追求するかを選べるということです。それがデジタル化や新しい技術の動きに伴って,選択の余地が広がっているというのが昨今起きていることです。代表的なものでいうと,シェアリングエコノミーとか,日本でも標語として浸透した感のあるエスディジーズ(SDGs持続可能な開発目標),ESG投資といったものです。
市場圏の多様化が真の弱者を救う
 最後に少しトークン・エコノミーの話をします。お金を通じた市場取引,あるいは市場競争は,ある意味で効率性を高めます。ただ,効率化は貨幣,お金を中心とした市場圏からこぼれ落ちる人,具体的に言うと,職が見つからない,低失業率になっても定職につけない人が出てきます。そういう人をどうするか。昔から市場とは違った原理で支えてきたわけです。代表的なのが,家族であったり,地域共同体です。こうした非市場的な経済圏がどんどん存在感を失いつつあります。100%お金で動かないような市場圏を今のテクノロジーを活用しながらつくることはできないのかということを,最近少し考えています。
 恐らくスジがいい解決策じゃないかと個人的に思っているのは,「多様化する」ことです。お金の種類を増やす。言い方を変えると,市場圏を増やす。地域通貨のような形で,従来の法定通貨とは違った形のお金を流通させようとしている経済圏もありますし,企業内仮想通貨を導入している企業も増え始めています。
 個人的になぜこのトークン・エコノミーに注目しているかと言いますと,100%お金で回る市場圏に替わるようなものがちょっとでも伸びてくると,すべてのコミュニティー,市場圏からこぼれ落ちてしまう人は,総数としては減るはずです。どの経済圏でも救うことができない,真の意味での弱者の数を減らすことができれば,残念ながら細りゆく国家財政でも,真の弱者を救えるかもしれない。
 なかなか生み出せないキャピタルを,新しいテクノロジーを活用しながら生み出していけるのではないか。生み出していくことを真剣に検討すべきフェーズに入ったのではないか,ということを本日はお話しさせていただきました。
(スライドとともに)





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