前駐フィンランド・前駐シンガポール
特命全権大使

篠 田  研 次 閣下

1953年名古屋生まれ,’76年京都大学法学部卒業,同年外務省入省。’79年ハーバード大学大学院卒業,’90年在米国大使館参事官,’93年在ロシア大使館参事官,’95年中近東アフリカ局中近東第二課長,’96年欧亜局ロシア課長,’99年在ロシア大使館公使,2002年条約局審議官,’03年欧州局審議官,’05年総括審議官,’06年在シカゴ総領事,’08年駐米国特命全権公使,’10年国際情報統括官,’12年駐フィンランド特命全権大使,’16年駐シンガポール特命全権大使,’18年10月外務省退官。

 本日は,フィンランドについてお話し申し上げます。
互いに好感を持ち合う両国民
 フィンランドは,2017年に独立100周年を迎えました。長らくスウェーデンの一部であったり,あるいは帝政ロシアの一部であったり,そういう中で1917年のロシア革命のさなかに独立しました。独立の機運を醸成することになった一つの要素として,日露戦争における日本の勝利がございました。極東の新興国である小国日本が帝国ロシアを打ち破ったということで,自分たちにもできるのではないかという気持ちを抱かせることになった。以来現在に至るまで,フィンランド人はおおいに親日的でございます。
 日本人にもフィンランド好きが大変多くいらっしゃいます。「シベリウス」や「アラビア」「イーッタラ」「マリメッコ」といったデザイン,トーベ・ヤンソンの「ムーミン」の人気などにも表れております。ムーミン人気の高さは,国外では世界でも日本が圧倒的だそうです。日本好き,フィンランド好きは非常に相互的なものだと思われるわけです。
 駐在中も,彼らの親日的姿勢を日々感じました。よく言われたセットフレーズは「フィンランドと日本はほとんど隣国。間に〝小さな国〟が1つあるだけです」。第二次大戦後,ソ連の侵入を受けて今も北方領土問題を抱える日本。ソ連軍との激戦の末に多くの国土を失い,その後も長く1,300㎞の陸上国境でソ連,そしてロシアと対峙し,圧力を受けてきたフィンランド。両者の間には,ロシアを東と西から挟み込む関係にあるという共通の認識があるのではないかと思います。
印象深い海上自衛隊寄港と流鏑馬
 今年2019年は,わが国がフィンランドと外交関係を樹立してちょうど100周年の「日芬(フィン)修好100周年」を迎えます。私が駐在していた’12~’16年は,独立100周年から「日芬修好100周年」に向けての助走の時期に当たります。その間,印象深いいくつかのハイライトについて触れさせていただきます。
 まずは,’13年の海上自衛隊の練習艦隊のヘルシンキ親善寄港です。練習艦隊がロシアのサンクト・ペテルブルクへ寄港することになり,フィンランド湾に入る艦隊3隻のうち,旗艦「かしま」をサンクト・ペテルブルクに,随伴艦2隻をヘルシンキに向かわせる計画が生まれました。フィンランド側は大変喜び,海軍挙げての一大歓迎ムードとなりました。海上自衛隊も意気に感じたのか,随伴艦をサンクト・ペテルブルクに回して,艦隊司令官ともども旗艦「かしま」をヘルシンキに寄港させようということになりました。「かしま」が,ヘルシンキの奥深くに,島と島との間を縫うようにフィンランド海軍と礼砲を交わしながら航行して来る様は,圧巻でした。この練習艦隊を激励しようと,当時の小野寺防衛大臣が駆けつけられました。史上初の海上自衛隊のヘルシンキ寄港,史上初の防衛大臣のフィンランド訪問,そして史上初の防衛大臣による練習艦隊の寄港先現地での視察・激励と,3つの「史上初」が重なりました。
 次に,翌年の’14年,千玄室裏千家大宗匠が会長を務めておられます関西フィンランド協会の創立35周年記念行事として,ヘルシンキで小笠原流の大型イベント「Spirit of Samurai 2014」が行われ,鎌倉八幡宮,小笠原流の関係者,裏千家の関係者の皆様など,大代表団がヘルシンキにお見えになりました。
 ハイライトは「流鏑馬(やぶさめ)」です。フィンランド馬術協会の会長さんが全面的に協力してくださり,会場探しはもちろん,馬や練習場,関係者の皆さんの宿泊施設にご自宅の広大な敷地を提供してくださいました。当日は人口60万のヘルシンキに1万人の観客が集まる大盛況で,「ヘルシンキっ子の度肝を抜く日本の侍の技」が大きなインパクトを与えました。
北極ビジネスに2国が連携・協力
 最後に,日本・フィンランド関係です。今後とも両国間の提携・協力の柱として,大きな可能性を秘めた「北極をめぐる協力」について少し述べさせていただきます。
 ’16年にニーニスト大統領の日本公式訪問が行われ,そのときの首脳会談で「アジアと欧州のゲートウェイとしての日本とフィンランドとの間の戦略的パートナーシップに関する共同声明」を発出。「北極」を両国間協力の大きな柱として位置づけ,両国が北極海航路の東と西の端に位置し,北極に関する先端技術を有している点を踏まえて,連携・協力していくという決意を表明しております。
 北極圏のフィンランド北部からバレンツ海に面するノルウェー北岸の「バレンツ地域」は現在,「北極ビジネス」の拠点として活況を呈し始めております。その分野は石油・ガス,水産資源,豊富な森林資源,埋蔵量の大きな鉱山,そして運輸・物流,さらには観光と,多岐にわたります。
 また,ロシアとの国境近くにある天然の良港キルケネスとフィンランド北部のロヴァニエミという町との間に鉄道を敷いて2地点を結び,北極海航路と欧州中央部を直結する輸送回廊を構築する「北極圏鉄道構想」,さらに,この北極海航路に並行して,アジアと欧州を直結する通信用の「北極圏・海底・光ファイバーケーブル構想」を関係者が熱心に推進しております。在フィンランド大使館主催のツアー「北極圏実地踏査ミッション」に私も同行しましたが,バレンツ地域の活力と潜在力に目を見張る思いでした。今後も日本企業にとって新たなビジネス機会をもたらし得るのではないかと思われます。


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