東京大学・慶應義塾大学 教授
大阪大学 招聘教授

鈴 木    寛 

1964年生まれ。灘高等学校卒業,東京大学法学部卒業。通商産業省入省,慶應義塾大学助教授を経て,参議院議員12年。在任中に文部科学副大臣を2期務める。2014年から東大・慶應の日本初のクロスアポイントメント,’15年から文部科学大臣補佐官を4期務める。OECD教育スキル局アドバイザー。Teach for ALLグローバルボードメンバー。日本サッカー協会理事なども務める。

 2020年から日本の教育が相当変わり,明治維新以来と言われております。その背景と概要についてお話を申し上げたいと思います。
日本の15歳の学力はOECD加盟国でトップ
 日本の教育はどうなっているのかといいますと,まず,こと学力については,小学校・中学校は極めて順調です。OECD(経済協力開発機構)が3年に1回,15歳の学力を測る生徒の学習到達度調査(PISA)では,’12年にわが国が35加盟国中トップに返り咲いております。そして’15年も引き続き特に理科・数学を中心に世界トップで,このことはAI時代を見据えて大変楽しみな日本のポテンシャルだと考えております。また,’15年から測っている「協同して問題を解決する力」は日本の女子が世界でトップクラスです。中国はOECDの平均を下回る結果が出ております。
 一つ皆さんにご理解いただきたいのですが,製造業では高等教育の修了者の占める比率は,全従業員の45%ぐらいです。それは肌感覚的におわかりだと思いますが,これから日本の雇用が増えるのは3つしかありません。グローバルとITと医療関係。グローバルでは100%高等教育修了者,IT関係では全従業員に占める高等教育修了者比率が,高専も含め97%,医療も90%です。つまり,何らかの意味で高等教育を受けていないと,新しい産業に勤められる人材はいないということです。大学の質を上げた上で大学進学率を確保する,さらには,企業のトップ,あるいはベンチャー企業を起こせる修士,博士の確保が必要だと申し上げたい。
板挟み,修羅場を乗り越えられる人材
 これからのAI時代は,’45年ぐらいに人工知能が人間の知能を上回るシンギュラリティ(singularity),さらにはVUCA(ブーカ・変動,不確実,複雑,曖昧の頭文字の造語)の時代,1700年代の後半から始まった産業革命以来250年ぶりに人類の歴史が変わる大転換期にあると私は思っております。
 オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンと野村総研さんが,「AIロボットによってなくなる仕事」を発表しました。例えば銀行の窓口,行政の事務員,電車の運転士さんなどはなくなる。一方で,アロマセラピスト,犬訓練士,ゲームクリエーター,ネイルアーティストなどはむしろ残る仕事にされております。今までの常識が極めて大きく変わっていこうとしています。もっと重要なメッセージは,6割の子どもたちが今はない仕事に就く。誰もが起業家にならなければいけない時代ということです。
 先ほど申し上げたように,わが国の15歳のポテンシャルは非常に高い。その強味にどう磨きをかけて,危機と向き合う力を育むか。危機とは,危険だけじゃなくて,機会,チャンスもある。教育の世界ではSTEM(ステム・Science, Technology, Engineering, Mathematics)にArtを加えた「STEAM(スティーム)教育」が重要だと言われていて,Artを見直さなければいけない。OECDがAI時代の教育の目指すところをまとめた「教育2030」で出てきたのは,態度と価値が重要だということです。特に「新たな価値を創造する力」「責任ある行動をとる力」,3つ目が今回一番強調したい「対立やジレンマを克服する力」です。
 言われたことをやるのはAI。これから必要なのは,人間にしかできない「想定外」やテンションとかジレンマと向き合う「板挟み」,あるいは「修羅場を乗り越えられる」人材,そして「AIを使いこなせる」のは当たり前で,「AIで解けない課題と向き合える」人材です。どう養成していくのか。大事にしているのが,世の中にある具体的なプロジェクトに基づく学び,プロジェクトベースドラーニング(PBL)です。ここでは説明するまでもないんですが,プロジェクトをやれば必ず板挟みに遭います。そして何かが欠けています。お金,時間,あるいは人が足りない。要するに全部リソースがそろったプロジェクトなんてないんです。それをどう乗り越えていくのかを,高校の頃からやっていくことが大事です。
次代を担うAI人材教育はぜひ関西から
 高校の学習指導要領も抜本的に変わります。先ほどのプロジェクトに基づく学びを導入し,「公共」という教科を入れます。歴史,地理も暗記科目から脱却して,先人たちが経験したすごい板挟み,苦労,苦闘を学び,ヒントと知恵と勇気をもらう教育にしていく。
 その際に最も障害になってきたのが大学入試です。今回40年ぶりに,大学入試センター試験を共通テストに改めます。センター試験は,基本的に全部マルティプルチョイス,穴埋め問題,あるいは5つの選択肢の中から1つ選ぶ―私はこれが日本をダメにしたと思っています。マークシートの減点主義を加点主義に変えていくために,記述式を導入する。
 こういうAI人材教育,アントプレナー(起業家)人材教育を小学校から大学院までやっていくのは,ぜひ関西からと思っております。関西は理数に強い名門高校が多い。15歳の金の卵を日本で最も濃厚に輩出している地域です。そして,東京発のいわゆる近代的な哲学を超えて,改めて人間の幸福を問い直すのが大阪万博だと思います。
 最後に,私の好きな言葉です。「強い決意を持った市民の小さなグループが世界を変えられるということを絶対に疑ってはならない。実際に世界を変えてきたのはそれしかないからだ」(文化人類学者マーガレット・ミート)。こういう無名な強い決意を持った若者を関西から輩出することを祈念しています。
(スライドとともに)


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