大阪ガス(株)
近畿圏部 地域活力創造チームマネジャー
北京五輪メダリスト

朝 原  宣 治 

同志社大学3年生の国体100mで10秒19の日本記録樹立。大阪ガス(株)に入社後,4回連続五輪出場。世界選手権に6回出場し,100mの日本記録を3度更新。自己最高記録10秒02。2008年北京五輪4×100mリレーで,メダル獲得。現在,陸上競技クラブ主宰者,一般社団法人アスリートネットワークの副理事長を務めている。

 大阪ガスの朝原と申します。歴代の社長から激励をいただき,かなりプレッシャーを感じています。5年前に一度,社会貢献的なお話をさせていただいたのですが,今日は私の専門分野,陸上のお話をしたいと思います。
若い世代に希望を与えた北京のメダル
 「スプリントの世界で日本のメダルなんて考えられない」という時代を経て,1992年バルセロナオリンピックで日本の代表チームが初めて4×100mリレーで入賞。これは当時,かなり大きな出来事でした。私が初めて出場したオリンピックは’96年のアトランタですが,2004年のアテネでは日本は4位というところまで来ていたんです。その後,「日本の短距離選手にメダルは無理」という長年の固定観念をぶち破ったのが,4×100mリレーで私たちが日本初のメダルを獲得した’08年北京オリンピックでした。
 北京の決勝前日は,緊張のあまりチームの会話も不自然で,メダルという言葉すら軽々しく口に出せなかったことを覚えています。しかし,今の選手たちは既に「東京で金メダルを取ります」と公言していますね。それぐらい若い選手たちの意識が変わったきっかけは,やはり北京だったんじゃないかなと。「メダルは取れる」というのが常識に変わったんですね。そこから若い選手はどんどん強くなりまして,’16年のリオでは銀メダルを獲得しています。このタイムがすごく速くて,私たちは北京で38秒15という記録でメダルを獲得したのですが,リオの記録は37秒60。これは世界歴代4位になります。ものすごい記録です。翌年の’17年にも世界選手権でメダルを取りましたし,これからの日本は,メダルを取る常連国になっていくのではないかという期待ができるわけです。
信頼が生むバトンパスが強み
 日本はバトンパスにおいても,いろんなチャレンジをしています。’00年のシドニーまでは,オーバーハンドパスを採用していましたが,’01年からはガラッと変え,今ではアンダーハンドパスが日本のパスになっています。これは現在,日本とフランスしかやっていません。世界のほとんどのリレーチームは,手の長さを利用してバトンを渡すオーバーハンドパスを選んでいます。日本人は,手を上げながらバトンをもらうというのは非常に走りにくいということもあり,どちらかと言うと加速局面に重きを置いたアンダーハンドパスを採用しているんですね。多分,東京オリンピックもこのままアンダーハンドパスでいくのではないかなと考えられます。
 また,ジャマイカやアメリカは,走るのは速いのですが,バトンパスのときにものすごくスピードが落ちるという傾向がありますので,そこで日本が追いついています。なぜ日本はスピードが落ちないかというと,チームワークが良く信頼関係がしっかりしているからです。渡す走者が走ってきたとき,自分がどのタイミングで飛び出すかというのは練習で決めていますが,本番で相手を信じて全力で出られるかというと,やはりジャマイカ,アメリカには難しいんですね。「あいつ,本当にバトンもらってくれるのかな」「俺,本当にバトンもらえるのかな」という状況で走っていますので,お互いにパフォーマンスが下がりながらバトンパスをしているのが海外勢です。しかし日本は,しかるべき位置に渡す走者が走ってきたら,思いっ切り信じて出ていますので,スピードを全く落とさずにバトンパスができるという強みがあります。
 さらに今,日本は確実にカーブが走れる人,スタートが上手な人,バトンをもらいながらカーブが走れる桐生選手みたいな選手など,適材適所でピタッとはまる選手たちがいるということも強くなってきている要因です。
科学的なデータを駆使して闘う時代に
 私が引退する5~10年前から徐々に,科学的なデータを駆使してトレーニングに生かそうという流れがありました。リレーのバトンパスも,これまでは人間の感覚上での話しかできなかったわけですが,今は,どれぐらいのスピードや位置で次の人にバトンが渡っているかというのが,走ってすぐに数字でわかるようになっています。こんなことを言うと怒られるんですけど,昔は,選手の実験データに対して何のフィードバックもなかった。でも今はそういうデータは指導者や選手たちに返していますので,いい関係で科学的なトレーニングが進んでいると感じます。
 さらに,今の選手たちは,プロの映像をYouTubeで見ることができるなど,私たちが選手だった頃にはなかったような情報を手に入れることができます。映像を通して,具体的なイメージをつかめるというのはものすごく大きい。憧れの選手がどういう練習をしているかなども知ることができるような時代ですので,これからはいかに指導者,あるいは選手たちが,たくさんある情報の中で自分に合う情報を取捨選択し,うまくパフォーマンスに生かせるかが,世界と闘えるかどうかのカギになってくるのではないかと思います。
 東京2020を前に,今いろんなスポーツの問題が出過ぎていまして,我々も肩身の狭い思いをしているのですが,それでもスポーツの持つプラスの力というのは大きいと感じています。企業の皆様,どうか東京五輪以降もスポーツを見捨てないで,サポートしていただけたらなと思います。今日はどうもありがとうございました。
(スライドとともに)


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