会 員

中 村  鴈治郎 君(文化)

1959年2月,京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。’95年上方歌舞伎 五代目 中村翫雀,2015年大阪松竹座にて,四代目中村鴈治郎襲名。
当クラブ入会 ’06年7月。

 歌舞伎というのは男が女をやるというのを皆さんご存じだと思います。この写真,私の息子の壱太郎でございます。この男がいかにして女になるかというところをこれからご覧いただきます。
 まず彼,眉毛ないですよね。人によって違うんですけども,私は眉毛を残しております。普段歩くのに眉毛がないのは嫌なもんですから。彼は女形ですし,女形というのはどうしても自分の眉毛の位置と違うところに描くものですから,眉を剃ってしまっています。そして,この上に白く塗ってベースをつくるわけです。
化粧の仕方に役者の個性
 なんで歌舞伎の化粧というのは白がベースなのか。今のように照明が明るくない,ロウソクの火の下でやっていた。舞台の顔の役者の表情がわかるためには,白く塗ってその上に描いたほうが遠くから見てもはっきりするだろうというのが発端ではないかと言われております。
 化粧の仕方は,それぞれの役者が自分でするものですから個性があります。私も壱太郎の化粧の仕方を見ていまして,あっ,この子,こんな仕方をするんだと初めて知りました。彼はまず鼻を立てるところから始めます。そして次に衿足を取っています。舞子さんとか芸子さんは自分で後ろに手を伸ばしてやるんです。彼女たちは本当によくできる。体が軟らかいんでしょうね。彼はお弟子さんに塗ってもらっています。
 彼の今日やっている役は遊女ですんで,少し色っぽい役でございます。?紅,これは粉ですけど,いろんな種類があります。粉を刷毛で塗ると,少しピンクになります。あとは鼻筋をこのピンクで立てていきます。そうすることによって,低い鼻でも高く見えます。少しピンクがかっていくことで色気も増すということです。
70になっても10代に化ける
 男性が女性をやるわけですから,女性よりも女っぽくということを基本で考えております。これが女優さんとの差だと思っております。いくつになっても,70になっても10代の役ができる,これが女形でございます。その基本となっているのがこの化粧です。化粧でごまかす,化けるわけです。
 次に口紅です。彼の唇がここですが,それよりも小さく描いています。上唇をやはり少し小さめに描きまして,下唇は少しぽってりと描きます。自分の唇よりはずっと小さいです。役によってはこの下唇のところをいっぱいに描きます。役によって化粧の仕方も変わります。
 眉毛は黒じゃないですね,赤です。なんでかと言いますと,黒の紋付の着物がございますが,あれも実は赤で染めてから黒で染めたほうが深みが出ると言われております。いわゆる色気を出すためにまず赤で描きまして,その上から黒で描きます。黒の下に赤がにじむことによって色気が出るんです。私も誰が始めたのか知りませんけど,何となく覚えてやりました。
 そして,今度は男です。梅王丸という役ですが,赤い筋がいろんなところに何本も入ってます。筋隈(すじくま)と申します。隈取の一つでございます。隈取というのは,初代市川團十郎が,今から350年ほど前に考案したであろうと言われております。慣れると実はこの隈取の顔は5分ぐらいでできるんです。言い方が悪いですけど,細かくするよりも,雑におおまかにやっているほうが見栄えがいいと言われています。
 女形は衣装をつけてから頭をつけましたけれども,この場合は大変大きなものなんで,先につけないとどうにもならない。手が上がらない状況になるんです。ですから先に頭をつけます。不思議な形です。頭はつけてますけど,何も下はできてない。
 帯は,ひもが3重になっています。前に結び目があります。この太い帯を縛るのに10分以上かかります。ひもだけで重さは18キロあります。それを男が4人がかりで巻きつけていきます。前の芝居が閉まる前からやらないと間に合わないんです。私はただただ目をつぶって耐えている。弟子たちは足を掛けて締めます。お前ら恨みでもあるのかというぐらいに思いっきり縛ります。たまに縛ってるときの顔をちらっと見るんですけど,目をそらしますね。初めに考えついた人は何を思ってこんなものをつくったのかさっぱりわかりません。
お客様のための芝居を追求
 先ほどから(帯を)叩いておりますけど,叩きながら回さないとこれだけ締まってこないんです。立っておられませんから支えてもらっています。ただのいじめですよね。芝居が始まるまでに疲れてしまいます。一昨年12月にやったときは,この役を甘く見ておりまして,舞台稽古で肉離れをしひと月,杖をついておりました。
 歌舞伎というのは,このように昔からのことを続けてはおりますけども,それぞれの役によっては,新しい衣装を考案したり,また役によっては新しい化粧にしてみたりということを常に考えております。
 宣伝にもなるんですけれど,(会場の)出口に「十月大歌舞伎」公演のチラシが置いてあります。この「十月大歌舞伎」なんかその最たるものです。どうやったらお客様にうけるか,楽しんでいただけるかということを追求したようなお芝居です。もしお暇でしたら,ぜひご覧になっていただきたいと思います。
(スライド・映像とともに)


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