鳴戸部屋 親方(元大関 琴欧洲)

鳴 戸  勝 紀

ブルガリア出身。2002年11月初土俵,’04年入幕,’14年3月引退。幕内戦歴:466勝322敗63休(57場所)。史上最速19場所で大関昇進。ヨーロッパ出身力士で初の大関となる。大関在位歴代4位(47場所)。’08年5月幕内最高優勝。引退後,’15年2月に15代鳴戸を襲名。’17年4月佐渡ヶ嶽部屋より分家し,鳴戸部屋を創設。現在15代年寄鳴戸。趣味:ゴルフ。

 身長が202cmあるのですが,生まれたときから大きく,4,800gの大きい赤ちゃんでした。幼稚園から小学校・中学校・高校・大学と背の順は一番後ろ。子どものときから体を動かすことが大好きでした。サッカー,バスケットボール,バレーボール,水泳。いろいろしましたが,個人競技に興味がありました。
まさかまさかの佐渡ケ嶽部屋入門
 父の影響もあり,13歳で始めたレスリングにのめり込みました。ブルガリアの体育大学に入って,五輪大会の金メダリストを夢見ました。ところが,2004年のアテネ五輪後,レスリングは8階級から6階級となり,一番上の無差別級は120s級になりました。18歳のときの体重はもう120kg。「ずっとダイエットしないといけない」と思い,大学で相撲も始めました。土俵がなく,レスリングのマットの上にシートを敷いて,まわしを締めての練習です。
 レスリングは1日で何試合もあるので,スタミナが非常に大事です。同じ階級の人としか戦わない。でも,相撲は身長も,体重も,年齢も,何も関係なく戦います。小さな人が大きい人を倒すこともあり,短時間で勝負を決める。必ず強い人が勝つというのではないのもおもしろかった。ブルガリアのチャンピオンになり,日本の方にスカウトされました。「大学の夏休みに日本に行って,練習を体験しないか」と言われ,’02年の8月,日本を訪れました。19歳でした。
 あまりの湿気で,蒸し暑くて,息が吸えない。これが日本の第一印象です。佐渡ケ嶽部屋の女将さんからは「入門おめでとうございます」と言われました。「ちょっと待ってください」「いや,いや,私は新弟子で来たと聞きました」。間に入ったスカウトは,親方には「新弟子連れてきた」,私には「体験で」と言っていたのです。ある意味,詐欺に遭いました。
ひたすら稽古, 稽古の日々
 寝るのは10人の大部屋で,扇風機もない。最初の夜は地獄でした。そして朝4時半から稽古です。レスリングで体には自信がありましたが,お客さん扱いも何もなく,ガンガン稽古させられました。かかとから耳まで全身筋肉痛です。使っている筋肉が違うことを知り,「今まで何をやってきたのか」と思い知りました。
 稽古終わると,風呂に入って,ご飯を食べますが,新弟子はそうはいかない。縦社会なので,10時半に稽古が終わると,親方,関取,兄弟子の順番で風呂に入ります。ご飯にありつけるのは午後1時から2時で,もうお腹はペコペコ。しかも,おかずはほとんど何も残っていない。ブルガリアの主食はパンで,白いご飯を食べたこともなく,ちゃんこの汁や漬物,さらには牛乳をかけて流し込んだりして,結構苦労しました。
 15歳で入門した人よりも,4年も遅れての入門なので,一刻も早く追いつき,追い越さないといけない。毎日必死でした。稽古,ちゃんこ,掃除,片づけ,付き人で,気付けばもう寝る時間。1時間だけの自由時間もトレーニングしました。
 1年半で関取になり,スピード出世と言われましたが,その間の記憶がないです。それだけしんどかった。もう一つ帰れない理由もありました。女将さんにパスポートを預けていたのです。ひたすら稽古,稽古,稽古の毎日でした。
 関取になると,大部屋から個室に移り,逆に付き人を付けてもらえました。天国と地獄の違いです。最初の1年半では体重2キロしか増えなかったのに,その後の1年半で体重は25キロ増えて,十両から大関まで昇りました。
 非常に稽古熱心な佐渡ヶ嶽親方のお陰で,入門した日から引退まで,稽古を休んだことがありません。31歳で引退したのですが,最初から最後まで,まじめに取り組み,自分でできることはやり切ったので今も悔いは何も残っていません。
今もまわしをつけて弟子と稽古
 自分が勉強,体験したことを弟子に伝えるべく,昨年4月に自分の部屋を興しました。弟子は全員十代の4人ですが,今も,一緒にまわしを締めて,稽古しています。それぞれの何が足りないかを見極め,良いところを伸ばしていく。これが私の仕事です。ちゃんこも一緒に作って,食事を共にします。夕方も一緒にトレーニングに行き,悩みがあれば話に耳を傾ける。1人,1人の時間を設けないと,なかなか皆の前では心を開いてくれません。やはり,弟子が親方に魅力を感じなかったら,なかなかついてきてはくれません。
 難しいけど,変えるべきところもあります。「親方の言うことは絶対だ」。相撲の世界に入ったとき,最初に言われたのがこの言葉でした。でも,親方でも間違いは間違いだし,違うものは違う。親方なしに弟子は相撲取れないけど,お相撲さんがいないと部屋経営もできませんから。それをお互いに理解した上で,弟子と親方が非常にいい関係を作らなければならない。
 ブルガリア出身の私には「地元」がありません。だから,後援者探しや弟子のスカウトも大変です。北海道から沖縄まで,全国を回って,頭を下げても,なかなかうまくいかない。でも,お客さんのために土俵を充実させたいと決意しています。
 新しい手法を始めた以上は,結果を出さなければならない。今年,鳴戸部屋の後援会ができました。預かった弟子は,必ず自分の子どものように,優しくも厳しく育てる自信があります。興味ある方は,資料にお目通しいただければ幸いです。ありがとうございました。




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