兵庫県立美術館 館長

蓑  豊

1941年金沢生まれ。’77年米国ハーバード大学文学博士号取得。’69年ロイヤルオンタリオ博物館 東洋部学芸員,’76年モントリオール美術館 東洋部長,’77年インディアナポリス美術館 東洋部長,’88年シカゴ美術館東洋部長,’96年大阪市立美術館 館長,2004年金沢21世紀美術館 館長,’05年金沢市 助役。’07年サザビーズ北米本社 副会長,’07年大阪市立美術館名誉館長,’07年金沢21世紀美術館 特任館長,’10年現職。

 ルーブル,ニューヨークのメトロポリタンと共に「世界3大美術館」とされるエルミタージュ美術館のあるサンクトペテルブルクは,300年もの長きにわたり,帝政ロシアの首都でした。レニングラードというかつての呼び名も,頭に残ります。この美しい街にある「冬の宮殿」が美術館の本館になっています。膨大な美術品を持つ美術館を昨年,初めて見学させて頂きました。
礎を築いた女帝エカテリーナ2世
 コレクションは実に310万点に上ります。とても本館に全部を並べることはできないため,郊外にある10数階建の巨大なビルにも収められています。ガラス張りで中をきちんと見ることができ,全体像がよくわかるすばらしい仕組みです。日本ではなかなかできません。
 美術館の礎となる絵画や宝飾品の収集に力を尽くしたのが,女帝エカテリーナ2世でした。もともとはドイツの小貴族出身。当時のロシアの女帝が,彼女が16歳のときにロシアに連れてきて,皇太子妃に迎えました。ロシア語もしっかり勉強し,ロシア正教にも改宗した彼女は,女帝にとても可愛がられた,非常に気の強い女性でした。女帝が亡くなり,皇太子がピョートル3世になった1761年に近衛兵がクーデターを起こしてピョートル3世を殺し,彼女が女帝エカテリ−ナ2世になりました。
 1764年に,ドイツの実業家が持つ317点のコレクションすべてを買ったのが,エルミタージュ美術館の始まりとなりました。女帝は,宮廷でそれを隠れて,友達に見せていました。ほぼ34年間の在位中に2,500点もの優秀なコレクションを作り上げました。
 今回,兵庫県立美術館で展示されている作品の85点のうち41点は,エカテリーナ2世が集めたものです。それだけでも,いかに多くのコレクションを購入していたのかをご理解頂けると思います。
エルミタージュの「宝物」を展示
 それではサンクトペテルブルクの街並みをご覧頂きましょう。この街は,フィンランドやエストニアにもとても近い場所に位置しています。ネヴァ川という川沿いの広大なところに宮殿が建っており,このうちエルミタージュ美術館があるのは「冬の宮殿」です。いざ中に入りますと,ベルサイユ宮殿によく似ていると思います。エカテリーナはフランス文化にとてもあこがれていました。日本で言うと赤坂離宮を大きくしたようなところと言えるでしょうか。
 エルミタージュの「宝物」とも言えるのが,イタリアルネッサンスからバロック,ロココ,つまり16世紀から18世紀までの絵画です。今回は85点全て,壁に掛かっていた絵を選んで展示しています。かつてないクオリティーの作品が日本にやってきたと思います。
見逃せない名品の数々
 6章に分かれて展示されている作品の一部を紹介していきます。最初はイタリアです。有名なティツィアーノの「羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像」。教科書にも必ず出てくる作品ですけれども,実はレントゲンをかけますと,羽の帽子は後からつけています。
 2番目はフランドル,現在のベルギーです。スネイデルスの「鳥のコンサート」は私も大好きで,非常に大きな絵ですけども,よくよく見ると,鳥が本当に細かく動物学者の標本みたいに描かれています。しかも,声のひどい鳥たちで,きれいな声を出す鳥はいません。動物学的にも大変大事な絵だと思います。
 3番目はオランダです。17世紀,初めて個人が絵描きさんのスポンサーになり,庶民がお金を持って新しい家に絵を飾る時代になりました。印象派の絵が非常にポピュラーになりました。ピーテル・デ・ホーホの「女主人とバケツを持つ女中」。フェルメールと2〜3年しか違わない,私の大好きな絵描きです。いわゆる風俗画というか庶民の暮らしを描いていることも,オランダ絵画が非常に人気を集める大きな理由だと思います。
 4番目はスペインです。スルバランの「聖母マリアの少女時代」。晩年の本当に小さな作品ですが名品です。聖母マリアがお祈りをしているところを描いたのですが,本当に若いモナ・リザみたいな絵で,これはどうしても借りたかった絵の1つでした。
 5番目はフランスです。バロックから今度はロココになります。そうなると非常にロマンティックでフレンチらしい絵があらわれます。時代で言うと,大体18世紀です。フラゴナールの「盗まれた接吻」。隠れてキスをしているのがフレンチらしい。それを向こう側の部屋から多分見られているのではないかと思ってこわごわしているというのもフレンチらしい。本当に細かくすばらしい絵を描く絵描きです。非常に貴重な作品なので,ぜひ見逃さずに見て頂きたいです。とても小さな作品なので,注意しないと見逃してしまうかもしれません。
 最後が,ドイツ・イギリスです。クラーナハの「林檎の木の下の聖母子」。エルミタージュの誇る名品です。1530年という早い時期ですが,特に背景の風景画がすばらしい。ダ・ビンチもそうですけど,そういう風景画をバックに描くという時代の代表的な作品です。
 別館には,マチスの大コレクションもありました。モスクワ,それからサンクトペテルブルクのスポンサーから呼ばれて描いています。本当に珍しい名品中の名品,大作が,このエルミタージュにあります。今後マチスの展覧会もぜひやりたいです。
(スライドとともに)




(C) Copyright 2002. The Rotary Club of OSAKA、 All rights Reserved.